小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 出かけるとき、この靴で家まで歩いて帰れるかな?と考える習慣はありますか。店に入ったとき、非常口の位置を確認していますか。自宅や職場に、倒れてきそうな棚はないですか。

 私は超高層階のレストランは極力避けています。知らない土地に行くときは、津波の被害予想マップや地形を調べます。いつも水と簡易食とアルミシートとバッテリーと常備薬を持ち歩いているので、このプチバッグ流行りの時代に、A4サイズのトートバッグが手放せません。

 6年前の3月11日、私は東京のビルの9階にあるラジオのスタジオにいました。大きな揺れで立っていることができず、膝立ちでテーブルにつかまって生放送を続けました。普段は重くて動かせないテーブルが、床を滑っていました。やがてスタジオのテレビモニターに、街をのみ込む黒い波の映像が映し出されました。その後、余震が収まるまでは、エレベーターが止まった場合に備えて、移動には階段を使いました。

 あれから6年。被災地の子どもたちへの寄付を続ける一方で、次はいつ自分が被災するかわからないという心がけも忘れないようにしています。

 私は、出かけるときはフラットシューズか安定した低いヒールしか履きません。ミュールでグラグラ歩いている女性を見ると心配でなりません。都市部の自治体はぜひ、帰宅困難者用に男女兼用の運動靴の備蓄を。真面目な話です。

 日本中どこでも、地震のリスクはあります。まだ減災の工夫が足りない場所はたくさんありますよね。壁に酒瓶を並べたレストラン、細くて急な階段でしか地上に出られないバー、ベビーカーではとっさに動きにくいお店など。テレビ局のセットや観覧席もかなり無防備。収録中に不安になることがあります。

「まさか」は必ず起きる。考えすぎだと笑われても、その日に備えましょう。用心深さは、勇気です。

AERA 2017年3月13日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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