若者の車離れで“自動車王国ニッポン”の座が揺らいでいる。一方で欧米は電気と自動運転にまい進。いまやIT企業や新興勢力の参入も相次ぎ、もうバトルロイヤル状態だ。だが待ってほしい。日本には「技術」だってガラパゴスで元気な市場だってある。AERA 3月6日号「進め!電気自動車」では、そんな熱い人々にフォーカスしてみた。
自動車が自動車ではなくなる日が近い? 「100年に一度」と言われる大変革に直面する自動車業界。空想のような現実がすぐそこまで迫っている。
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ストレスの多い一日が終わり、思わずソファに倒れ込んだ。車内にあるのはソファだけ。小さくついたため息に反応したのは、正面中央にはめ込まれたタッチ画面。人工知能(AI)が語りかけてくる。
「お疲れのようですので、お休みください」
同時に穏やかな音楽が流れだし、車内を包む。再びAIが語りかける。
「自宅でいいですか。他の場所に寄りますか」
「自宅でいい。お風呂も頼む」。そう告げると、自動的に動き出した車の中から人工知能が遠隔操作し、約25キロ離れた自宅の浴槽に、好みの41度でお湯を注ぎ始めた……。
●「自動車時代」に潮目
将来、あるかもしれない自動車の姿だ。戦後の「自動車文化」を牽引してきた団塊世代には、おとぎ話のような世界が、すぐそこまで来ている。
戦後の日本で必死に働き経済力をあげ、所得の向上に伴ってモノを買い、所有することで豊かさを実感してきた団塊世代は今、次々と社会の一線から引退し、老後の生活を送る。車を持つことが一つのステータスであり、憧れでもあった人たちだ。
高齢化に伴って運転の危険性が高まる中、高齢の運転者による交通事故が社会問題となり、免許証を自主返納する動きも出てきた。自治体なども自主返納を促す政策の検討を開始。70歳以上の免許更新時には、特別な講習も必要となっている。
つまり、この70歳というのが一つの目安で、自動車の運転が絶対不可欠な生活を送る人を除けば、運転を徐々に控えるようにし、80歳までには完全にやめましょうという社会のメッセージが込められている。団塊世代がそうした年齢にさしかかる今年から2027年ごろにかけて、同世代が率いてきた「自動車時代」も節目を迎えるのだ。