小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 東京の知り合いには、車を持っていない人やカーシェアリング派が珍しくありません。私も東京では車ナシ。オーストラリアのパースでは一家に2台以上の車があるのが普通ですが、我が家は1台です。夫が乗って出かけてしまうと、私は徒歩のみ。でも滅多に外出しないので困りません。

 東京ではよくタクシーに乗りますが、パースでは空港との往復くらい。日本と違うのは、座る場所です。お客さんは、基本的に助手席。運転手さんと並んで、喋りながら行くのです。生来の人見知りである私はこの習慣だけはなじめず、毎度、窮屈な後部座席に乗り込みます。

 しかし運転手さんたちは構わず話しかけてきます。インド系の人が多く、総じて話好き。ちゃんと前を見て走ってほしいので、結局こちらが半身を乗り出して会話することになり、だったら最初から隣に座ればよかったじゃないかと思うのですが、やはりなかなか勇気がいります。だって近いよね?家族以外ではありえない近さだよね?

 このフレンドリーすぎる習慣は、乗務員とお客が上下関係ではなく、治安がいいので根付いているのでしょう。のどかでパースらしいなあと思います。

 今気づいたけど、もしかして私は「助手席は彼女の席」と思い込んでいるのかも。しかも夫に「ガムとって」などと言われるとつい邪険にしてしまうのは、そこに座るのはかいがいしく彼氏の世話を焼く気の利く彼女であるべき、という刷り込みと闘っているのではないか……私は助手じゃねえ!そんな可愛い女を求めるな、とか。別に求めちゃいないと思うんですが。両手が塞がっているんだから、ガムくらいむいてあげればいいのにね。なんだこの屈折は。ユーミンとドリカムの呪いか。

 初めて助手席に座ったのは、たしか日産スカイライン。青春の思い出は、ドライブとともに。つくづく私は、車世代なんだと思います。

AERA 2017年3月6日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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