汚染水の海への流出も完全に防げているわけではない。原発近くの海では、低濃度ながら、原発から流れ込んだと見られる放射性物質が検出。ただ、外洋では、海の水で薄まって、問題ないレベルになるという。

 汚染水の扱いも転機を迎えつつある。敷地内の浄化装置では、どうしても三重水素(トリチウム)という放射性物質が取り切れない。経産省の部会は昨年、このトリチウムを含んだ水を水で薄めて海に放出するのが最も安く、短時間で処理できると報告した。

 今後の方針を決める別の部会のメンバーでもある東京大学の関谷直也特任准教授(災害社会学)は、「経産省の報告では、漁業が受ける経済被害をコストに含めていない。地元の漁業が再生の途上にあり、放射性物質の国民の理解が十分に進んでいないなかでの放出は時期尚早だ」と国の姿勢の不足を指摘する。

 原子力規制委員会も、海洋放出が現実的な対応だとしているが、強く主導するわけでもない。

 注水という方式を見直すべきだとの意見もある。ゼネラル・エレクトリック(GE)の元技術者だった佐藤暁さんは、「溶けた燃料は発熱量が下がっている。注水しなくても空冷で管理できる可能性がある。そうした解析もすべきだ」と指摘する。

 いったんレールを敷くと、ほかの選択肢は除外され、主体性がないままひた走るばかり。原子力をめぐる計画ではそんな事例は珍しくない。最近の典型例は高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)だろう。事故から20年以上を経過し長らく必要性が疑問視されながら、ようやく昨年末に廃炉が決まった。福島第一原発の廃炉作業への政府や東電の姿勢と重なる。(朝日新聞編集委員・服部尚)

AERA 2017年3月6日号