東京都墨田区の「浜野製作所」は、町工場でEV開発を成功させた先駆的な存在だ。

 墨田区ゆかりの浮世絵師・葛飾北斎にちなんだEV「HOKUSAI」は、09年から開発をスタート。1号、2号と改良を重ね、12年春には公道を走れる1人乗りEV「HOKUSAI-3」が完成した。充電8時間で航続距離35キロ、最高時速50キロを実現し、同年に開業したスカイツリーを周遊した。大企業の下請けにすぎなかった町工場がEVを作り上げた実績は、当時も大きく報道された。

●製造の街復活の秘策に

 同社の代表取締役の浜野慶一さん(54)には、墨田区の中小企業を復興させたいという思いがあった。最盛期には約9700軒あった町工場も、今では約2800軒にまで減少。「何か行動しなければ」と考えていたところ、墨田区と早稲田大学、地元企業の産学官連携のEVプロジェクトが持ち上がった。浜野さんはいち早く参画を決めた。

「エンジンを作るのは無理でも、構造がシンプルなEVならいけると思った」(浜野さん)

 趣味でEVを作った経験のある仲間たちと、図面起こしから始め、見よう見まねで初代「HOKUSAI」を完成させた。だが結局、2人乗り設計にしていたためにナンバーが取れず、初代は不完全燃焼に終わった。

 その反省を生かした「HOKUSAI-2」は1人乗りとし、イチから設計。だが今度は車体が重くなりすぎた。ナンバーは取得できたが課題も残る結果に。それから約2年。集大成の「HOKUSAI-3」では、軽量化とバランスの最適化を追求。前述した完成度のEVができた。この経験は「会社を変えた」と浜野さんは言う。

「下請けでは、コストも納期もすべて発注者に決められ、ウチには何の決定権もありません。それが、EV開発では予算、工程、リスクなどを勘案して、モノ作りを自分たちでコントロールする経験ができた。社員の意識がガラッと変わりました」

「太陽光だけでも走る」

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