トランプ政権は、アジアで日本が主体的に協調体制を築くラストチャンスとなる可能性も否定できない (※写真はイメージ)
トランプ政権は、アジアで日本が主体的に協調体制を築くラストチャンスとなる可能性も否定できない (※写真はイメージ)

 ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任して約1カ月。新大統領は意に沿わない企業やメディアをツイッターなどで厳しい言葉で恫喝してきた。グローバル企業は戦々恐々としている。トランプ政権で世界はどう変わるのか。AERA 2017年2月27日号では、「トランプに勝つ日本企業」を大特集している。

 米国の保護主義は今に始まったことではない。米国の通商政策の本質を捉え、「トランプ時代」の世界で日本が生き残るヒントを探る。

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 米国の通商政策は大きく捉えれば、1776年の建国から1945年の第2次世界大戦に至る時代は保護主義、その後は自由貿易が基調といえる。

 だが、第2次大戦後も米国は、保護主義的な顔をのぞかせる局面が幾度もあった。

「歴史的に見ても米国の通商政策は必ずしも自由貿易、保護主義のどちらかに固定的にコミットしてきたわけではありません」

●転機はニクソン時代

 津田塾大学の西川賢教授(米国政治史)はこう解説する。

 欧米先進国が戦後、自由貿易体制を牽引したのは、ブロック経済が第2次大戦を引き起こす要因になった、との反省があるからだ。1929年の世界恐慌の際、自国産業保護に傾く各国の関税引き上げ競争に拍車をかけたのが、30年に米国が共和党主導で制定したスムート・ホーリー関税法だ。同法に基づく広範囲の高関税措置により国際貿易額は大幅縮小し、景気低迷の長期化、ひいては世界大戦の誘発につながったとされる。

 こうした認識に基づきトルーマン政権時代の48年に発効したのが、多国間交渉を旨とする関税貿易一般協定(GATT)だ。ケネディ大統領が提唱したケネディ・ラウンドは画期的な関税引き下げを実現した。

 転機はニクソン政権時代の70年代に訪れる。経常赤字に転落した71年、米国はドルと金の交換の一時停止や、輸入品に10%の課徴金を課す緊急政策(「ニクソン・ショック」)を発表。74年には通商法301条を制定し、「不公正貿易慣行の是正」や「二国間交渉の強化」にシフト。これらが後の「日米貿易摩擦」へと連なっていく。

 このように、米国は二大政党の下、「労組に支持された民主党」は保護主義的で、「産業界の支持を受けた共和党」は自由貿易の推進を標榜してきた、との単純な枠組みには収まらない。

 労組の衰退、共和党内の宗教右派の台頭、反グローバル感情の広がりなどを受け、近年はさらに状況は複雑化している、と西川教授は指摘する。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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