Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズギン)/1973年イスラエル生まれ。国立エルサレム・ヘブライ大東アジア学科教授。2007年、京都大学において「日本の地域研究」で博士号
Nissim Otmazgin(ニシム・オトマズギン)/1973年イスラエル生まれ。国立エルサレム・ヘブライ大東アジア学科教授。2007年、京都大学において「日本の地域研究」で博士号

 ドナルド・トランプ氏がアメリカ大統領に就任して約1カ月。新大統領は意に沿わない企業やメディアをツイッターなどで厳しい言葉で恫喝してきた。グローバル企業は戦々恐々としている。トランプ政権で世界はどう変わるのか。AERA 2017年2月27日号では、「トランプに勝つ日本企業」を大特集。

 米国には、500万人以上のユダヤ教徒がいるといわれている。トランプ大統領の娘、イバンカとその夫クシュナーも厳格なユダヤ教徒だ。そんな背景も、トランプ大統領の誕生を、少なからず後押ししたという――。

 ユダヤ教徒たちがトランプ大統領に期待することとは? ヘブライ大学のニシム・オトマズギン教授に話を聞いた。

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 トランプ大統領が当選後、いち早くお祝いに駆けつけたのがイスラエルのネタニヤフ首相です。

 米国内には500万人のユダヤ系米国人が住み、文化的にも経済的にも一番大切な国は米国であるからです。今回の政権には娘婿でホワイトハウス上級顧問のクシュナー(36)がいます。厳格なユダヤ教徒です。妻のイバンカはユダヤ教に改宗しました。ユダヤ教は布教を熱心にする宗教ではなく、改宗には複雑な手続きが必要。それでも改宗したことにユダヤ人は驚いています。大統領選の直前、イバンカはニューヨークにある著名なラビ(ユダヤ教の宗教的指導者)の墓にお参りをしました。正統派ユダヤ教徒は喜びました。選挙戦には少なからず影響を与えたのではないかと思っています。

 イスラエルの宗教指導者や右派の現政権支持者はトランプ政権に期待しています。トランプが打ち出した米国大使館をエルサレムに移す計画に注目しています。左派も期待しています。

 イスラエルでは右派が勢いを増しています。新聞もシェルドン・アデルソンというユダヤ系米国人が私費を投じて発行している右派系日刊新聞(無料)が主要紙。ラスベガスやマカオのカジノ経営で成功した実業家で、大統領選ではトランプに2千万ドルを寄付した男です。

 イスラエルには米国のユダヤ人という一定の安全網があります。トランプ政権は、金融、マスコミなど大きな影響力がある米国ユダヤ人社会に損なことはしないでしょう。日本の場合はどうでしょうか。トランプ政権に寄りすぎてはしごを外されそうになった時、安全装置となるものは何でしょうか。

AERA 2017年2月27日号