孫さんはかつて第1次プーチン政権の政権準備期間中にロシアに行き、プーチン氏に会っています。当時の世界銀行総裁の紹介だったようですが、その時会った人たちが、その後のプーチン政権の閣僚になり、孫さんが「こうすべき」と助言したことが実現したといいます。ただ、その後ITバブルが崩壊し、当時はロシアに投資できなかったのですが……。

●時代を前に進めたい

 2013年、孫氏とともに奔走したのが米通信会社TモバイルUSの買収だ。すでに当時業界3位のスプリントを買収済みで、2社が合併すれば業界トップとも互角に戦える。ただ、当時の米民主党政権は経営統合に否定的で、実現しなかった。

 当時、孫さんと冗談で「共和党政権になるのを待つしかないですね」と話していたんです(笑)。こんなエピソードがあります。就任直後のケネディ前駐日大使の誕生日祝いで、孫さんと大使館を訪問しました。

 その時、孫さんはケネディ前大使に「アメリカにはGoogleやアップルのように世界一の企業が多い。経済も金融も世界一。けれど、通信ネットワークだけが世界一ではない」と言ったんです。そして、「アメリカのネットワークも世界一にしてみせる」と宣言しました。税金は使わず、私のリスクでやってみせる、と。

 びっくりしました。私は事前に「大使館で話す事は全て記録され、ホワイトハウスに報告されますから」と忠告していたんです。「だからあまり言い過ぎないで」という意味だったのですが、孫さんは、ホワイトハウスにまで伝わる絶好のチャンスだ、ととらえたんだと思います。

 ホワイトハウスには当時の記録が残っているでしょうから、トランプ氏も孫さんがアメリカに投資をする気がある人物だと知っているはずです。単にTモバイルとスプリントを合併させるだけでなく、アメリカに世界一のネットワークをつくり、経済を復活させる。そんな話なら乗り気になるでしょう。

 孫さんは世界を舞台に、IoT(モノのインターネット)バブルを起こそうとしていると思います。アメリカに5兆7千億円を投じるのはこのためのステップ。バブルというのは時代が変わる前に起きる。孫さんは今、時代を一歩前に進めようとしているのではないでしょうか。

(構成/編集部・市岡ひかり

AERA 2017年2月27日号