米国では、リニエンシー制度と呼ばれる課徴金減免制度がある。カルテルなど不正に関わっても、自ら早期の段階で証拠を提出すれば、罰金の減免を受けられるというものだ。今まで対策に後れを取ってきた日本企業も、トランプ政権発足を機に準備を進める企業も増えるのではと、佐々木社長は期待する。

 今後、トランプ政権で「勝てる」企業の条件とは何だろうか。

 日米貿易摩擦時に本田技研工業の責任者として7年間現地に勤務し、ロビー活動などを担当したフライシュマン・ヒラード・ジャパンの田中愼一社長は、

「これからは、アメリカ国民に受け入れられる企業になることが、本当の意味でのリスクヘッジにつながります」

 と強調する。これは大統領から気に入られることとイコールではない。重要なのは、トランプ政権との距離感だという。政権と近すぎても、反トランプ派から攻撃を受ける。また、トランプ大統領が退陣し、反トランプ路線の大統領が就任した場合、今度はアメリカでビジネスをしにくくなってしまう。

「まずは骨太な中長期的アメリカ戦略が必要。この中から、アメリカ社会に貢献している要素を集約し、メッセージとして発信すべき」(田中社長)

 かつて本田技研工業では、米国からの輸出強化や現地での部品調達率を米国の自動車メーカーより高く設定することで、米国経済への貢献をアピール。米国民を味方につけ1989年、日本人として初めて本田宗一郎氏が自動車殿堂入りを果たした。

 また、先の鶴野さんによると、今後も続くであろう、大統領のツイッター“口撃”も、恐れることはないという。

「トランプ氏に何か発言されたら、むしろチャンスだと思ってうまく使うべき」

 とアドバイスする。トランプ大統領のフォロワーや米国のメディアによって世界中に企業のメッセージが発信できるからだ。

 重要なのは、トランプ氏の発言から数時間以内にコメントすることだ。タイミングを逃してしまうと、メディアは大統領の発言のみを報じ、企業としての反論を伝えてもらえなくなる。

「対応次第で世界での企業の評判も、株価も左右されます。あらかじめシナリオをシミュレーションし、現場対応を社内で共有しておくことが重要です」

(編集部・市岡ひかり

AERA 2017年2月27日号