●2人は「人権侵害なし」

 ただし、9人の委員のうち2人は意見が異なる。奧武則委員はアクロシンGFPの入ったES細胞と元留学生のES細胞のエピソードは別の話として視聴者は見るだろうとし、(4)にも相当性があるので「人権侵害があったとまでは言えない」。

 もう一人の市川正司委員も「名誉毀損があったとは考えない」が、奧委員とは理由が違う。小保方氏の冷凍庫にあった複数のES細胞のうち、どれかがSTAP細胞の正体となった疑いがあるとの考えには相当性があり、名誉毀損とはいえないとした。ただし、複数のES細胞の中で元留学生のものに焦点を当てたことには相当性がなく、不正確で勇み足だと断じた。つまり、小保方氏の冷凍庫内の複数のES細胞を全て映していれば、問題はなかったという判断だ。

 このパートについて、坂井眞委員長は「取材が不十分だったのではなく、編集上の問題。アクロシンGFPのES細胞の話と元留学生のES細胞の話を分けて示せばよかった」と話す。

 だが、小保方氏の冷凍庫に元留学生のES細胞があった点は真実性がある。元留学生の証言から、これを小保方氏が不正に入手した疑惑には相当性がある。これがアクロシンES細胞ではないことが明示されたとしても、視聴者は結びつけてしまうのではないだろうか。坂井委員長は「その表現を見てからでないと判断できない」と話す。

 小保方氏の冷凍庫にはほかにも複数のES細胞があり、そのうちの一つがSTAP細胞の正体だったことがのちにわかっている。市川委員の意見のように、これらを全て映していれば、元留学生のES細胞は入手方法の不明さを示すあくまで一例となり、問題にはならなかったのか。ここの線引きもよくわからない。

「一般視聴者がどうとらえたか」は、委員の主観的な判断に頼らざるを得ない。委員会は調査報道が萎縮することがあってはならないと強調したが、主観に左右される「一般視聴者のとらえ方」を相手に、どこまで疑惑に踏み込んだ報道ができるのかには疑問が残る。(科学ライター・詫摩雅子)

AERA 2017年2月27日号