ロ:父はムッソリーニ時代、世界恐慌で打撃を受けた企業救済のため組織されたイタリア産業復興公社に勤めていました。母も外交官でしたが、結婚して退職しました。

島:10代でご両親と別れ、ローマに移住されたそうですね。

ロ:12歳の時です。姉が重い病気になって、イタリアで治療もしましたが、結局他界して……。

島:イスタンブールにも住まわれていますね。

ロ:父の仕事の関係です。

島:監督がアフリカ生まれで、東の古都にも暮らした経験から、生粋のイタリア人とは違う鋭い視点、広い視野を持ち得たのではないかと思ったのです。壁がない。どんな人種にも民族にも、職業にもまったく垣根がない。

ロ:映画というのは、世界的言語ですから、垣根のなさは深く心がけています。

●「日本の大学で教鞭を」

島:様々な都市で暮らされましたが、居心地がいいのは?

ロ:いわゆるお国自慢の“イタリア人気質”もいいところばかりではないし、他者とのほどよい距離感という点でニューヨークが一番かな。オバマ前大統領は「壁をつくる国家は孤立するだけだ」と言っています。人と人の間に壁をつくる人も、自らを牢獄に閉じ込めるだけです。歴史を振り返れば、壁は常に壊されてきた。だから最近の米国の風潮は非常に残念ですね。

島:監督は、英国のケンブリッジ大学やニューヨークなどの大学でも教鞭をとられ、日本の大学でも教えながら、映画を撮りたいという希望もお持ちですね。

ロ:若い頃、仕事で東京に約1カ月滞在しましたが、この社会についてよくわからないことがある。だから学生に教わりながら考えてみたいんです。

島:ウンベルト・エーコは、21世紀は欧州で有色人種が多数派になると予言しましたが、映画はハリウッド中心に西洋中心史観のままです。滅ぼされるマヤ文明側から描くスペイン人なんて観たことがない。アジア人もまだ自らの文化を表現することが苦手です。監督の目で見つめた日本をぜひ観てみたいです。

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