島:後半、撮影中に起きた難民船の悲劇が挿入されますね。

ロ:イタリア海軍の船には20日ずつ2度、乗りました。僕が死者たちの撮影に躊躇していたら、船長に、船底へ下りて撮影するのが君の義務だと言われた。あまりのショックと怒りで撮影を終えました。

島:真っ白なシーツを敷き、夫の写真と聖像にキスしてまわるおばあさんの場面は美しいですね。

ロ:あれは死の場面を撮影した後、挿入しました。その後の20分は沈黙です。亡き夫への島の風習です。死への弔い、僕の好きなロッシーニの音楽もそう。喪に服すかのような沈黙、そして変容です。

島:ランペドゥーサ島の女性市長は熱心な難民擁護派として有名です。けれどもEUは昨年のテロ多発を契機に、難民を受け入れすぎるイタリアに難色を示していますね。監督は、それまでは知られざる“海からの何者をも受け入れる“ような島の人々を描きたかったそうですが、豊かな幸を与えもすれば、瞬く間に命を奪う夜の海に身を委ねる漁師の姿は、象徴的でした。あれもメタファーですね。

●想像絶する難民の地獄

ロ:もちろんです。サムエレの戦争ごっこ、架空の敵への不安、よく見えない片方の目、それがやがて見えるようになること……。すべてがメタファーです。漁師が生きる海の流動性、しなやかさもすべてです。

島:昨年、伊パレルモ市長に会って話を聞きましたが、アフリカ難民は、船に乗るまでも貧困や飢餓、渡航費用の強奪、強姦、内臓売買のために子どもが殺害されるなど想像を絶する地獄を経験した人が多い。しかも小さな船に定員の3倍も乗り込む。息苦しい船底に押し込まれるのは、密航仲介業者に支払う金額が少ない人たちでしたね。

ロ:小さな難民船で、30万~50万ユーロの儲けだそうです。非人道的な許し難い組織犯罪です。

島:映画には、鮮烈な“難民ラップ”を歌う青年が登場しますが、あの逸材はいったいどこで発見したんですか?

ロ:みんな歌いはするけど、あの青年の才能は特別です。僕はナイジェリア移民の青年たちと海上で出会い、彼らは難民センターの部屋にも招き入れてくれた。彼の歌は、10万の言葉を尽くすよりも饒舌だったでしょう。

島:本当に。ところで監督は、アフリカのエリトリア生まれなのですね。かつてのイタリアの植民地ですが、ご両親は何をされていたのですか?

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