小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中
小島慶子(こじま・けいこ)/タレント、エッセイスト。1972年生まれ。家族のいるオーストラリアと日本との往復の日々。オーストラリア行きを決断した顛末を語った新刊『これからの家族の話をしよう~わたしの場合』(海竜社)が発売中

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 もしかして、トランプ米大統領が信じているのは「画になるものだけに価値がある」ということなのかもしれません。ご存じの通りトランプ氏は、「お前はクビだ!」という決め台詞が有名なテレビタレントでもあります。

 就任前の記者会見では、書類をカメラの前に山積みにし、大統領の任期中は息子たちにビジネスを任せると表明。実は中身は白紙だったのではと揶揄されましたが、画面上のインパクトは大。会見の最後には「(息子たちがヘマしたら)『お前はクビだ!』と言ってやるよ」とオチをつけました。

 大統領就任式では、ホワイトハウスに到着したトランプ夫妻をオバマ大統領夫妻が出迎えるシーンで、メラニア夫人がミシェル夫人に大きなティファニーの箱を手渡し、受け取ったミシェル夫人が箱のやり場に困って、結局オバマ大統領が箱を持って奥に引っ込むという場面がありました。トランプタワーの警備の影響で隣のティファニー本店の売り上げが落ちたと報じられましたが、就任式直前の厳粛な場面で、生中継のカメラの真ん前にティファニーの箱を掲げ、オバマ夫妻を困惑させるというこの一幕は、トランプ氏がその後大統領としてテレビをどのように使おうとしているかが非常によくわかるシーンでした。

 就任後すぐにメキシコとの国境の壁の建設をぶち上げたのも、ニュースで国境のフェンスが繰り返し映し出され、「本当に壁をつくるんだ」と印象付ける効果がありましたし、司法長官代理をクビにしたのはテレビのイメージそのまま。入国禁止の大統領令では、空港の様子が全世界に流れました。ハーレーダビッドソンのバイクを並べて「アメリカ製だ」と讃えたのもわかりやすいですね。今後のトランプ大統領の動きを考える上で、彼は「何を言ったかより何をしたか」ではなく「何をしたかより何を見せたか」の人であることを、よく覚えておいたほうがよさそうです。

AERA 2017年2月20日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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