トランプ米大統領の登場で先が読めなくなってきた国際情勢。だからこそ、見えにくい事実をあぶり出す新しい地図に注目したい。VR(バーチャルリアリティー)やスマホアプリで地図の世界もどんどん進化している。ブラタモリなど街歩きブームの極意もルポする。AERA 2月20日号では「地図であぶり出す未来」を大特集。
「地政学」と銘打った本が次々と出版されている。軍事と結びついた地政学は戦後タブーとされたが、混沌とした世界を見る際の羅針盤となるのか。軍事評論家の田岡俊次さんに、地政学の観点から見た日本について、寄稿していただいた。
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「地政学」は国際政治をもっぱら地理的観点から論じようとする。20世紀初頭のドイツで膨張政策を正当化し、英、米が帝政ロシアやソ連に対する封じ込め戦略を推進するための説が主だった。地政学という言葉が広まる以前から、国家、地域の成り立ちや消長が地理的条件によって左右されるのは自明だった。
戦争は領土や勢力圏の境界を巡って隣接国との間で起こることが多い。そこに住む民族間で反乱や闘争が起き、領域外に住む同一民族の支援に出兵することもある。国境と民族の数が多ければ、武力紛争に引き込まれる可能性も高くなるだろう。
日本は生活に適した温帯にある大きな島国で、安全保障上も経済的にも有利な位置にある。
●海に守られている日本
今日の日本は陸上の国境がなく、深刻な民族対立がないから、比較的平和を保ちやすい条件がある。宗教的にもキリスト教、イスラム教などのような宗派の闘争もない。
日本の対外戦争は663年、大和朝廷が同盟状態にあった百済救援のため出兵し、唐、新羅軍と戦って大敗した「白村江の戦い」、1592年から98年にかけての豊臣秀吉の「朝鮮の役」、そして1894年の日清戦争から1945年の敗戦に至る約50年間の一連の戦争と介入、と大陸への出兵が3件あったが、結局失敗に終わった。