●同時代の表現者と同根

 イングリッシュ・ナショナル・オペラの公演で名高い「サンクンガーデン」という作品は、行方不明者をテーマに作品をつくっている映像作家が導かれるようにアナザーワールドに迷い込むという設定のもと、3D映像や、虚実ないまぜの巨大映像と刺激的なオーケストラ音楽が合わさり、生と死とのあわいの感覚というものに肉薄している。

 彼は完全にYouTube時代の映像環境を理解していて、予告編、そして、その制作過程までもがアップロードされている。その内容も、ソプラノ歌手の風体が若いドラッグ中毒者を彷彿とさせる刺激的なものであり、この作家が見据えているものが、同時代の他ジャンルの表現者、たとえばヒップホップなどに歌われる社会性や時代感覚と同根であることがよくわかる。

 ピアノ独奏や弦楽多重奏をバックにしたチェロ独奏に映像が絡む作品などもあり、まさにマルチメディア時代のクラシック音楽の、ひとつの可能性を実現した作家なのだ。

 紹介した「ネオ・クラシック」とも言える潮流のアーティストたちの背景には、現在の目や耳の肥えた聴衆にクラシック音楽の何が魅力的に響くのか、という冷静な分析とコンセプト立てが見て取れる。それはまるで、時代や社会に関して意識的な現代美術の作家のようなスタンスのごとし。実際に、アムステルダムを拠点に、現代音楽作家の作品を中心に意欲的なコンサート活動を続ける向井山朋子は、ピアニストという枠を飛び越えて、アート作品を発表したり、ダンサーとのコラボによるパフォーマンスを精力的に行っていたりもする。フェスなどによるコンサートホールを離れた様々な演奏の機会、YouTubeのようなPRおよび表現手段がたやすく得られるようになったことが、ますます、クラシック音楽のあり方を多様なものにしていく可能性は大いにある。これからのクラシック音楽の、明日はどっちだ?!

湯山玲子(ゆやま・れいこ)
著述家/著作活動とともに、出版、広告の分野でクリエイティブディレクターなどとして活動。テレビ番組でコメンテーターとしての登場も多数。著書に『四十路越え!』など。

AERA 2017年2月13日号