●気軽にクラシックを!

 ジェフのヒット作である「ザ・ベルズ」や「アマゾン」といった作品をシンプルに編曲し、共演することから始まったコラボは、1回だけではなくその後も継続。楽曲も組曲化したテーマ性を持つものに熟成していった。最新作「プラネッツ」では、彼がテクノ分野でも好んで取り上げていた宇宙というモチーフを60分以上の交響組曲に仕上げている。長年、クラブミュージックの現場で培ってきた、クラシック音楽とは全く異なるイディオム(表現法、スタイル)が、見事にオーケストラの音に置換されており、たんなる「異種格闘技」とは違う、ひとつの到達点がこの楽曲には存在している。

 思えば、クラシックは、ガーシュインの手になるジャズの響き、バルトークによるユーラシア大陸の民族音楽のセンスなど、多ジャンルの影響を取り込みつつ、表現の幅を広げてきた。この動きは、デリック・メイなどのデトロイト・テクノの盟友たちにも広がっている。若い世代では、クラシックのピアノソリストとしてのキャリアと同時に、テクノアーティストとしての活動も行っている、フランチェスコ・トリスターノ・シュリメのような才能も世に出ており、クラブミュージックとクラシックのカップリングは、「ネオ・クラシック」の一翼たる新しい響きを広げているのだ。

 クラシックのライブ体験は、生音の響きを優先した専門ホールで、というのが常道。そこでは皆が演奏者の音に集中するために、曲中の雑音は御法度。一度、演奏が始まったら、途中入場も許されない厳格さがある。

 ならば、「もっと、気軽にクラシックを聴けて、しかも安けりゃなお良い」という発想はおのずと出てくる。現在、ロンドンのロイヤル・アルバート・ホールを中心に夏季、8週間にわたって開催されるコンサートイベント「BBCプロムス」は、なんと1階席アリーナと天井桟敷が立ち見で、世界の一流の演奏家のプレイが6ポンド(約850円)で体験できるのである。

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