前出の砂川教授も、スポナビライブにしてもDAZNにしても、「すでに多額の投資をしていますが、資金面やクオリティーの面でどこまで耐えられるか。いま地上波のテレビはすべて2Kで、人間は一度いい画質で見てしまうと古い画質には戻れないもの。本当に定着するかは、すぐには見通せない」と話す。

●上位クラブだけが潤う

 また、Jリーグに限れば長く「サッカー中継といえばスカパー!」とファンの間では強く認知されていただけに、DAZNに放映権が移ってしまったことを心配する声も少なくない。もちろん近年のJリーグは、「関心度の低下」「入場者数の減少」「クラブ、リーグの収益悪化」という問題を抱えてきただけに、2100億円もの巨額の収入を手にできたメリットは計り知れない。

「(優勝チームが年間で最も勝ち点を挙げたチームでなくなってしまうなど評判の悪かった)2ステージ制を3季ぶりに1ステージ制にできたこと、今オフにさっそくストーブリーグが活発化し、中村俊輔(横浜マリノス→ジュビロ磐田)や大久保嘉人(川崎フロンターレ→FC東京)らビッグネームの移籍につながったことは、いずれもDAZNの参入のおかげ」(Jリーグ関係者)

 資金を得たことで優勝賞金などが増額されたことは喜ばしい。だが、注目すべきは幅のある傾斜分配の額で、優勝チームが全体予算約30億円の半分に当たる15億円の強化配分金を手にする一方で、5位以下になれば強化配分金はゼロ。クラブ間の格差を生みかねないとの危惧もある。

「上位クラブばかりが潤い、いい選手も上位クラブに集中。下位クラブとの実力差が開き、優勝争いの寡占化が進む可能性はある」(同)

 リーグが盛り上がるのは歓迎すべきだが、急激な変化はひずみも生む。果たしてDAZNはJリーグの救世主なのか。

 スポーツ中継のあり方は確実に変わりつつある。スマートフォンやPC、タブレットと視聴方法が増えたことは素直に喜ぶべきことだろう。通学や通勤の電車の中や仕事の空き時間に、気になる試合の動画やダイジェストなどを気軽に楽しめるとなれば、時間を有効活用できるとともにスポーツへの興味はこれまで以上に深まる。ただ、選択肢が増えたとはいえ、動画の質などが下がったり、リーグ自体に悪影響を与えてしまったりすれば、元も子もない。スポナビライブやDAZNはスポーツ中継の未来を提示してくれているともいえるが、多くの課題が見え隠れしているのも事実である。(スポーツジャーナリスト・栗原正夫)

AERA 2017年2月13日号