生活必需品など、消費者が購入に思い入れをあまり持たない品を「低関与商材」という。ダッシュボタンやダッシュリプレニッシュメントは、カートリッジや洗剤などの低関与商材を1クリックや自動再発注でより「無意識に」購入させる仕組みなのだ。書評サイトHONZ代表の成毛眞さんは、これらのサービスが生まれたのは当然だという。

●家事も低関与生活へ

「消費者が低関与商材を買うかどうかは広告、特にテレビCMによって決まると言われています。テレビ離れが進んだことで、マーケティングに惑わされない人が増えてきたんですよ。すると気づくんです、洗剤の種類によって洗い上がりに差なんか出ない、洗剤はわざわざ選ぶべきものじゃないって」

 これは米国ではすでに起きている現象だ。テレビから日用品や消耗品のCMが減り、店舗で商品を選ぶ楽しみを見いださなくなった消費者は、家でボタンを「ポチる」。ボタンの電池が切れた後も自社製品を選んでもらうため、メーカーはアマゾンに広告を出し続けるだろう。すべてがアマゾンのプラットフォーム上で繰り広げられる「ダッシュボタン戦争」が起きるのは5年後だと成毛さんは予測する。

 そしてこの消費行動の変化は、買い物だけではなく家事全体の、いやライフスタイルそのものの価値観を変えるという。

「どうでもいいや、という低関与の閾値が上がって、消耗品の買い物だけじゃなく家事全体を適当で良しとする“低関与生活”に移行していくはずです」(成毛さん)

 乾燥機NGの洋服は買わない。昼食はコンビニのおにぎりやカップ麺で済まそう(低関与)、その代わりに週末のディナーはじっくり時間もお金もかけよう(高関与)、という具合だ。

●「家の中」の技術革新

 そんな私たちの価値観の変化を後押しするように、アマゾンをはじめ、グーグル、マイクロソフト、フェイスブック……世界をリードする企業が競って「家の中」でイノベーションを起こそうとしている。特に注目されるのが前述した音声コマンド「アレクサ」だ。冒頭のCESでは冷蔵庫のほか、声で作動する洗濯機やテレビなどアレクサを塔載した700もの製品が発表され、家電を声で操作する時代の到来を印象づけた。音声コマンドは前出の企業をはじめ、日本でもLINE、ヤフーとソフトバンクなどが開発中だが、アマゾンが一頭地を抜くのは、アレクサを公開して企業に提供していることだ。iPhoneが他社制作のアプリによって急成長を遂げたように、アレクサには今も日々新しい機能が生まれ続けている。

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