ではその矛盾をどう解消するべきか。じつは民主党政権の多文化主義およびそれと表裏一体の介入主義は、その解消の試みだったと言える。経済はグローバル化している。であれば政治も国民国家の枠を超えグローバルになるべきではないか?


 それがオバマの企てだった。

 トランプの就任はその企ての敗北を意味している。それは一般にグローバリズムの敗北と言われるが、それもまた正確ではない。グローバリズムは政治では敗北しない。そもそもそれは経済の現象だからだ。トランプの就任は正確には、ナショナリズムという政治の論理とグローバリズムという経済の論理の矛盾を解消しようとする試み、それそのものの敗北と言うべきである。民主党は、結果的にグローバリズムの追認だったとしても、いちおうは政治と経済の矛盾を解こうとしていた。けれどもトランプは、そんな矛盾は放置でよい、政治は政治の論理だけ追求すればよい、グローバリズムのなかでも「米国第一」とだけ叫べばよいと訴えているのだ。そんな彼がビジネスマン出身であること、それもまたひとつの矛盾である。

AERA 2017年2月6日号

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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