高橋:そうなんですね。

安倍:東京に住んでいると「どこに海があるか」がわからないんですよね。実は近くてもビルがあって見えないし。このまま防潮堤ができてしまったら、東北でも同じことが起こるはずです。生活が海から切り離されてしまうのは、すごく危険なことじゃないですか?

高橋:被災地の学校でも、子どもたちが大人のいないところで海に飛び込むことが禁止されている。漁師の子どももゲームばかりしています。内陸では親たちが「土は汚いから触るな」と言うんです。

安倍:日々、海や土の恩恵も受けているのに。

高橋:田舎の子どもも、僕らのころに比べると、ずっと自然から離れてしまっています。

安倍:鳥取県智頭(ちづ)町にある「森のようちえん」に行ったとき、子どもたちと一緒に山を駆け回るうちに橋に行き着いたんです。丸太を渡しただけの橋です。前日の雨でぬかるんでいたので、大人の男性に先に渡ってもらって、何でもなかったので私も渡り始めたところ、橋の真ん中まで行ったら、私の前にいたやんちゃな男の子が急に「戻る」と言い出したんです。

高橋:何かあった……?

安倍:「行きなよ」と言っても「戻る」と言ってきかないので、私もいったん戻って渡り直した。そうしたら、渡りきったとたんに橋が落ちたんです。

高橋:直感が働いたんだ。

安倍:「わかってたの?」と聞いたら、「やばいと思った」って。「これからの時代に必要なのはこの感覚だ」と思いました。

高橋:津波のときも、自分の暮らしを海にさらして生きていた人たちは、一目散に逃げましたからね。

安倍:何を強靱(きょうじん)化するかって、人間しかないと思うんです。防潮堤を築くよりも、丸太の橋を渡らなかったあの男の子のような子どもたちを育てることのほうが重要です。

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