高橋:いますよ。東京の読者の女性で、下北半島の生産者に嫁いじゃった人もいます。

安倍:それはすごい! 生産者が困ったときに読者が応援に行ったという話も聞きました。

高橋:秋田で不耕起栽培をしている米農家が、収穫期の長雨で稲刈り機を使えなくなったんです。手刈りでは間に合わなくなって、困り果てて読者にSOSを出したところ、延べ200人が駆けつけました。

安倍:自分が食べているものを作っている人は誰か。それを知って応援にまで行くって、いままでにないつながり方ですよね。

高橋:相互理解は「知る」ことから始まりますからね。まずはお互いを「知ろう」と。

●道路に落ちた土に苦情

安倍:各地の編集長のみなさんは大変じゃないですか? たぶん、「食べる通信」は儲からないでしょう?

高橋:「儲からない」というか、「ぼろ儲け」はできない。コミュニティーを大事にしていて、読者数の上限も設けています。

安倍:なるほど。

高橋:その代わり、「人間儲け」はできますよ。

安倍:人間儲けね。

高橋:それにしても、われわれは一体どこまで自然から離れてしまうんだろうって。考えてしまいますよね。

安倍:私は、「すべての答えは自然のなかにある」と思っているので、そのことには危機感を覚えます。

高橋:少し前に訪ねたある都市で、びっくりすることがありました。農家が稲刈りをしてトラクターで家に帰ったところ、アスファルトに土が落ちた。すると、「車が汚れる」と警察に苦情の電話が入ったそうです。路上の土を見ても、「いまは稲刈りの時期で、自分たちの食べる新米が出るんだ」という想像力が働かなくなっているんです。それだけ、生産者と消費者の距離が離れてしまっている。

●海はどこにあるのか

安倍:私は東京で生まれ育ったので、季節感は街路樹やクリスマスツリー、門松といったもので感じてきました。それが地方では田植えだったり、稲の色の変化だったりするんだということを、最初に教えてくれたのは主人でした。

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