「東北食べる通信の読者が1500人。500人くらいはすぐ集まると思ったのですが……」

 県内のコミュニティースペースを行脚して座談会を重ねた。

「すると、自分だったら特集の生産者に会いに行く、という人がいたんです」(赤木さん)

 産地と消費地が近いのが都市部の強みだと気づいた。宅配ではなく生産現場を訪ねて「食べる通信」を受け取ることもできるようにするなど、現地体験型の神奈川方式を生み出した。

●社会が動くさまを実感

 取材した日、イベントの参加者は約20人。その一人で読者の野田雅子さん(46)は言う。

「10年以上住んでいますが、神奈川について何も知らなかった。食べる通信のイベントでいろんな場所を知ることができ、生産者の知り合いもできて楽しい」

 赤木さんも言う。

「生産者と消費者が一緒に料理をし、食べ、語り合う。まさに僕が描いてきた地産地消の究極のイメージです」

 前職までのスケール感と、ギャップが大きすぎませんか?

「以前の僕が相対していたのは数字。いまは、小さくてもそれぞれが自律的かつ有機的に動くことで、社会が動くさまを実感できる。ワクワクします」

 英訳付き「やまぐち食べる通信」を発刊する和田幸子さん(57)も約20年間、メリルリンチ、JPモルガン、モルガン・スタンレーなど、名だたる外資系金融機関を渡り歩いた。旅した国は30カ国。現在は、東京・神楽坂で食のセレクトショップを営みながら山口県に通う日々だ。

「旅行は好きでしたが、国内を旅することはほとんどなかった。山口は、三方を海に囲まれた“食材の宝庫”。地元の人たちが『当たり前』として見過ごしているものの中に、宝ものがいっぱいあると感じました」

 昨年3月の創刊号で取り上げたのは、地鶏の「長州黒かしわ」と海水を原料に伝統の製法で作った「百姓の塩」。外資系金融時代、ニューヨークやロンドンで触れたのとはまた別の「異文化」に直面しているという。

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