演説の名手とされる米国のバラク・オバマ前大統領(55)が1月の退任演説で、冒頭で聴衆への謝意を述べた直後に、「私が初めてシカゴに来たのは……」と語り出し、自身の政治家としての出発点となった体験を振り返ったのは、この「原点から話す」の好例だ。

●仲間なんだと思わせる

 さらにパックンは、聴衆が「自分のことを話してくれている」と感じられる言葉を使うのもポイントだと話す。オバマ前大統領が口にした「教会の仲間」、「労働者たち」、「普通の人々」といった言葉がそれだ。そこに、「閉鎖された製鋼所の暗がりに」などと、短いながらも情景が目に浮かぶような描写を加えると、さらに効果的だという。

「ハリー・ポッター」シリーズで一躍有名になった女優、エマ・ワトソン(26)の男女平等についてのスピーチも、性別に基づく固定観念に疑問を持つようになった自分の原点を、「8歳のとき」「14歳になると」「15歳になると」「18歳になると」と具体的に振り返っている。

 ソフトバンクグループ代表の孫正義(59)に至っては、スピーチをいきなり「私はアメリカを愛しています」で始めている。アメリカを「第2の故郷」と感じ、感謝しているからこそ、自社のサービスをアメリカに広めたいのだ、と自らの訴えにつなげる流れだ。

「『愛しています』の一言で、アメリカの聴衆は『この人は自分たちの仲間なんだ』と感じ、スピーチを聞く気になる。孫さんは日本人的なアクセントを変に直そうとせず、ゆっくり堂々と話しているところもいい」(パックン)

 二つ目の法則は、「ストーリーを語る」だ。

 英語の名スピーチには必ず、具体的なストーリーがちりばめられている。日本人なら省いてしまいそうなことも詳細に話すのがミソだ。

 フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグ(47)は、大学の卒業式で「夫の死」という個人的体験から学んだことを語っているが、その際、夫の棺が地中に埋められる状況まで描写している。

「通常、スピーチの内容の8割は忘れられるといいます。だからこそインパクトのある逸話を入れることが重要になる」(原賀さん)

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