特徴的なのは、姻族の了承を得ずとも戸籍謄本などと一緒に専用の書類を市区町村に届け出れば、その日から関係が切れる点だ。アディーレ法律事務所の鳴海裕子弁護士は次のように解説する。

離婚の場合は姻族との関係は自動的に切れますが、死別の場合は継続します。そのため、配偶者が亡くなったあとでも、義父母や義きょうだいに対して形式的な扶養義務が残る。姻族関係終了届はそれを断ち切るためのもの。届けを出しても関係終了の通知は姻族に行かず、戸籍にその旨が記載されるだけ。配偶者から相続した遺産を返金したりする必要もありません」

 ただし、子(義父母から見て孫)と姻族との関係は切れない。そのため、「子に義父母らの扶養義務が発生する可能性も少なからずある」(鳴海弁護士)。

 実は近年、この姻族関係終了届を出す人が増えている。夫婦問題カウンセラーの高草木陽光氏が話す。

「姻族と縁を切りたいという相談は一昨年までは年に2、3件でしたが、昨年は30件近く寄せられています。法務省の戸籍統計を見ても、05年度の届け出数は1772件でしたが、15年度は2783件。今後も増えていくことが予想されます」

 高草木氏のもとを訪れる相談者は大半が30~40代の女性。いずれも姑と同居、ないし姑の自宅から徒歩5分程度の距離で生活している相談者だ。

「離れて暮らしていても、『毎日、姑が20回ぐらい電話してきて耐えられない』という人もいました。姑と接する時間が多い奥さんほど、不満を抱えやすい傾向にあると言えます」(高草木氏)

 意外にも、ドラマのような“嫁姑の仁義なき戦い”の果てに姻族関係終了届を出す……というケースは少ない。大半は姑から陰湿なイジメに遭ったりした人ではなく、「漠然とした不満を抱えた奥さん」(同)なのだ。

●嫁のせいで死んだ

 夫を心筋梗塞で失ったMさん(30代)の場合は、義父母と同居を続けることに息苦しさを感じたことがきっかけだった。夫亡きあとも義父母は孫を可愛がり、不自由なく暮らしていた。だが、あるとき「実家に戻って暮らそうかと考えている」と漏らすと義父母が「息子も奪い、孫まで連れ去るのか!」と激高。実は義父母が「嫁のせいで息子(夫)は亡くなった」と考えていたことを知り、Mさんは関係を断ち切る決意をしたという。

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