●満タンでは発進できず

 だが、遼寧が搭載する「J15」戦闘機(ロシアのSu33を国産化)は燃料を減らし、ミサイル、爆弾も最小限にしないと発艦できない。また大型レーダーをつけ、高空から敵機を見張る早期警戒機は、エンジンの出力が低く、カタパルトがないと発艦できない。早期警戒機がないと、敵機が低空飛行で水平線の下に隠れて接近し対艦ミサイルを発射するのを防げず、空母は容易な標的になる。

 ロシア、中国、インドはやむなく、レーダーをつけたヘリコプターを使っているが、米空母などの早期警戒機と比べ、ヘリは飛行高度が低く、航続時間は短く、レーダーも非力で遠くは見張れず、「ないよりまし」程度でしかない。

 米空母は飛行甲板に何十機もの艦載機を上げ、4基のカタパルトで20秒に1機を発進させる。だが、「遼寧」などでは戦闘機が飛行甲板の後部から滑走を始めるから、甲板上には数機しか待機できず、一度に出撃する機数はごく限られる。米空母は有事には戦闘・攻撃機55機を搭載、近く「ジェラルド・フォード」が就役し、空母は11隻になるから計605機、一方、「遼寧」は戦闘機約20機を搭載可能だから雲泥の差だ。

 中国は空母1隻を建造中で、さらに1隻を造る気配だが、飛行甲板先端を上に反らせているようで、カタパルトはないのだろう。米海軍は新型空母に「リニアモーター」列車の原理による「電磁カタパルト」を採用し、中国も研究はしているようだが、実現するとしても相当先の話だ。

 空母の戦力差だけでなく、中国海軍の対潜水艦能力は極めて低いから、艦船攻撃用の優秀な原潜57隻を有する米海軍に対抗し、中東などとの長大な海上通商路を守ることは将来もまず不可能だ。

 最大の貿易国家である中国は輸入資源と海外市場に対する依存度を高めれば高めるほど、世界的制海権を握る米国との協調をはからざるを得ない立場にある。(軍事評論家・田岡俊次)

AERA 2017年1月23日号