伊勢神宮 雨の翌朝、木々の間から光が柱のように現れた。すがすがしさを感じる内宮・参道と鳥居の光景(撮影/稲田美織)
伊勢神宮 雨の翌朝、木々の間から光が柱のように現れた。すがすがしさを感じる内宮・参道と鳥居の光景(撮影/稲田美織)
稲田美織(いなた・みおり)/写真家/1961年生まれ。伊勢志摩サミットでG7首脳に写真集を贈呈。1月7~15日に東京・表参道のA-galleryで個展を開催
稲田美織(いなた・みおり)/写真家/1961年生まれ。伊勢志摩サミットでG7首脳に写真集を贈呈。1月7~15日に東京・表参道のA-galleryで個展を開催

 2016年の新語・流行語大賞は「神ってる」。“聖地巡礼”“パワースポット”がにぎわいを見せ、神様が身近にあふれる。3・11から6年、一人ひとりがそれぞれの形で宗教と向き合う時代。日本の宗教にいま、何が起きているのか。AERA 1月16日号では「宗教と日本人」を大特集。

 世界をまたにかけて活躍している写真家の稲田美織さんに、日本の宗教の聖地である伊勢神宮について寄稿していただいた。

*  *  *

 私の巡礼の旅が始まったのは2001年9月11日。ニューヨークで米同時多発テロを目撃したときからだ。自分の命より長くそこに存在すると信じ切っていたツインタワーが、3千人近くの命を巻き込みながら、巨大な煙とともに跡形もなく崩れ去った。そのショックは今も忘れることはできない。今までの自分の価値観を一瞬で変えてしまった。物体はいつか滅びるのだということに、やっと気づいたのだ。神様が存在するのなら、私たち人類をどこに導こうとされているのかと。

 1年以上一枚の写真すら撮れずにいたある日、ネイティブアメリカンの写真集を見つけた。その自然と一体化した雄大な聖地に一縷の望みを抱き、カメラをかばんに入れて旅立った。美しい自然は、私の凍(い)てついた魂に再び力を与えてくれた。亡くなった方々の分も生きようと心に決めた。それから世界中のあらゆる宗教の聖地を訪れ、祈り、撮影していった。

 銀座の画廊で展覧会を開いた時、知人に伊勢神宮のおまつりを撮影することを勧められた。その神域に初めて足を踏み入れた時、空気、音、光の全てが特別であることを体中で感じた。古式にのっとり外宮から参拝し、風宮とか土宮とか自然や自然現象の名前がついているお宮に出逢った。自分が探し求めていた「調和の鍵」を見つけたのだと直感した。

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