寺島実郎(てらしま・じつろう)/日本総合研究所会長/てらしま・じつろう/1947年生まれ。政治経済の専門家。メディア出演や著書多数。1月20日に新著『シルバー・デモクラシー 戦後世代の覚悟と責任』 (c)朝日新聞社
寺島実郎(てらしま・じつろう)/日本総合研究所会長/てらしま・じつろう/1947年生まれ。政治経済の専門家。メディア出演や著書多数。1月20日に新著『シルバー・デモクラシー 戦後世代の覚悟と責任』 (c)朝日新聞社

 2017年が幕を開けた。16年は、トランプ氏の大統領選勝利に代表されるように、世界中で既成概念や秩序が「反転」した年だった。今年はどうなるのか。国際政治について、日本総合研究所会長の寺島実郎さんに話を聞いた。

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 2016年を振り返ると、英国民が国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選んだブレグジット(Brexit)により、欧州が揺らぎ始めた年でした。仏、独などの選挙の行方も含め、17年は欧州にとって、あらゆる面で試金石になります。さらに自由と民主主義の理念の共和国だった米国も、トランプ氏の出現で変わりつつあります。

 日本は戦後、米国を通じてしか世界を見ない枠組みの中に閉じこもってきたがために、自身の羅針盤をつくる努力をしてきませんでした。これからは自分自身の羅針盤が必要です。自国中心主義やポピュリズムが見え隠れする中、日本が国際社会でどういう価値を守り、発信すべき国なのかという自覚が、私の言う羅針盤。欧州モデルも米国モデルも、日本の前から消え始めています。誰かに頼り、運命を預託する時代は過ぎつつあるのです。経済、産業、安全保障も含め、羅針盤を持つべき時代が来ています。

 17年以降の国際情勢を占う上で重要なのが、米ウォール街や英シティーに代表される金融界の動向と「シルバーデモクラシー」です。大陸欧州10カ国が国境を越えたマネーゲームに「金融取引税」という一種の国際連帯税をかけようとしています。シティーはこれを嫌い、ブレグジットに向けて動きました。ウォール街も、法人税減税やインフラ投資などトランプノミクスという経済政策を先回りして期待感を高め、「トランプ相場」を跳ね上げることで、反ウォール街の主張をしてきたトランプ氏に圧力をかけています。

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