サルもの日々に疎し?(※イメージ)
サルもの日々に疎し?(※イメージ)

 経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。

*  *  *

 サル(申)がサル(去る)と、トリル(こぶし)を利かせた歌声とともに、トリ(酉)が来る。

 サルもの日々に疎しとは言うけれど、我々は、あまり健忘症であってはならない。政治や政策が何をやると言い、何をやらないと言ったのか。しっかりと脳内の記憶装置にトリ込んでおかなければならない。

 そういえば、「トリクルダウン」などという言葉が飛び交っている時期もあった。あの手の言葉に騙されないよう、今年もまた大いに注意しておくべきだろう。サル知恵が繰り出すトリックに、ヒトはゆめゆめ引っ掻かれては、いやいや、引っ掛かってはならない。

 トリインフルエンザが気になる今日この頃だ。そして、グローバル経済を覆うもう一つのインフルエンザ。それも気になる。その別名は、「反グローバル」だ。「保護主義」とか「排外主義」と言い換えてもいい。要は、国境を閉ざして引きこもる。それだけならまだいい。自分は国境を閉ざしておきながら、他国の市場には、国境をまたいで攻め込んでいく。そんな手前勝手が、国から国へと感染していく。グローバル化の魔の手から、人々を守るなどというまやかしの甘言とともに。
 トリ急ぎ、この感染を食い止めないと、2017年は最悪の酉年となりかねない。「反グローバル」を旗印に掲げて、危険なサル芝居を演じようとする輩を一網打尽にしたいところだ。そんな大トリ物に乗り出す。それが、我らグローバル市民たちに課せられた役割だ。サルの手を借りてでも、この使命を果たしたい。

 グローバル化を礼賛したいわけではない。そもそも、グローバル化は単なる現象だ。それを生かすも殺すも、我々の知恵次第だ。今こそ、サルとヒトとの違いが問われる。

「アメリカ・ファースト」だの、「強い日本を取り戻す」だのという奇妙な時をつくるトリたちには、できれば早めに立ちサルことをお願いしたい。もっとも、それだけでは安心できない。反グローバルのインフルエンザは、サルまねインフルエンザだ。誰かがやれば、みんなやる。こんな病が消え去って、17年は飛ぶトリ跡を濁さずで治まってもらいたい。

AERA 2017年1月16日号

著者プロフィールを見る
浜矩子

浜矩子

浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演

浜矩子の記事一覧はこちら