三つ目に挙げたいのは、米国を再度、TPP(環太平洋経済連携協定)へ振り向かせるための辛抱強い、決してぶれることのない長期戦略の構築です。これには数年かかるでしょうが、オバマ大統領も当初はTPPに反対だったことを忘れてはなりません。

 現在、貿易をめぐる米国内の政治は混乱しています。自由貿易に対する国民の関心を再び呼び起こす方策が見つからなければ、TPPへの支持を主張し続ける政治家は誰もいません。それでも世論調査によると、自由貿易を支持する力強い世論が地域レベルでは今もあるのです。米国全体で復活するまでには時間がかかるかもしれませんが、それに向けて行動を起こす価値はあります。

 また、日本にとっては、トランプ政権の中国に対する強硬姿勢が予測範囲内でおさまるのかどうかも関心事でしょう。もし、米国があらゆる面で中国と対立するようになれば、(尖閣諸島や南シナ海など)海上安全保障の面でも中国の活動を活発化させることになります。だからこそ、トランプ政権との戦略的な対話が重要となるのです。トランプ政権で安全保障を担当する閣僚たちは、こうした問題に対する戦略や作戦をよく理解しています。

●懸案は朝鮮半島情勢

 最後に朝鮮半島情勢について一言。トランプ氏が選挙期間中に北朝鮮の金正恩委員長に会ってもいいと言った単発的な発言を除けば、彼の政策顧問や閣僚となる人たちから、北朝鮮との外交を支持するという証拠は何一つ出ていません。懸念すべきはそこではなく、韓国の内政の行方です。今の政治混乱が、対北朝鮮で軟化政策をとる革新政権の誕生につながらないか心配しています。そうなれば日米韓はまさに協調性の真価を問われる事態に直面しますし、北朝鮮に対する影響力も弱まることになります。

(構成/編集部・山本大輔)

AERA 2017年1月16日号