今回の日ロ首脳会談でロシアは、歯舞群島、色丹島の2島返還どころか島の主権を維持する可能性にも触れました。これは1956年の日ソ共同宣言以前に戻ったとも言えるでしょう。

 もし安倍外交がリアリズムの上に立脚するならば、このような首脳会談にはならなかったはずです。山口での首脳会談はプーチン大統領が初です。

 解決への道のりは遠く、互いの信頼を築くことが必要だという理屈づけはある程度理解できます。しかし、ないない尽くしのロシアに対して、善意にあふれた外交をするというのは今に始まったことではないのです。長らくロシアは日本にとって「鬼門」のような存在になっています。

 そもそもプーチン政権は、私たちが考えている以上に盤石な基盤を持っていてこれからも持続可能な政権なのでしょうか。問題は中国を封じ込めるという一点で外交が動いていることです。中国を封じ込めるのでなく中国の海洋進出を牽制し、対中関係を今よりもうまくハンドリングしていくという外交にシフトすれば自ずと何が必要なのかが見えてくるでしょう。

AERA 2017年1月2-9日合併号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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