●自宅で採便して返送

 肥満にかかわる検査は、他にもある。近年注目される腸内細菌叢(腸内フローラ)の検査。こちらも手軽にできるという。
 昨年11月から始まった「マイキンソー」は、理化学研究所認定ベンチャーのサイキンソーが運営する腸内細菌叢検査サービスだ。1万9440円(税込み)の検査キットを購入し、自宅で採便、返送すると約6週間で結果が出る。次世代シーケンサーと呼ばれる最先端の装置を使い、米粒大の便から、菌のDNA情報を解析する。

 サイキンソー代表取締役の沢井悠さんが説明する。

「かつては、腸内の菌の検査というと、一つ、二つの限られた菌を検査する方法しかなかった。培養法といわれるもので、例えば食中毒菌、O157などを調べるのに使われます。腸内フローラの検査は、健康な人のおなかの中にすみついている菌の全体を見るという方法です」

 腸の中にはほとんど酸素がない。酸素の少ない状態に適応している菌がほとんどで、外気に触れる状態のシャーレで培養しても見つけることができないのだ。だが、DNAは、菌自体が死んでも見ることができる。菌からDNAを取り出して網羅的に読むことで、腸の中の全体像を調べることが可能になった。

 検査でわかることは五つ。「太りやすさ」「腸のタイプ」「菌の多様性」「主要な菌の割合」、そして「腸内の菌構成」だ。

●太りやすさは腸内から

「太りやすさ」は、ファーミキューテス門とバクテロイデーテス門と呼ばれる二つの菌の比率(FB比)から判断する。この場合の太りやすさとは、太りやすい食べ方をしているかどうか、という意味だ。ファーミキューテス門は、脂分の多い食生活をしていると増える。肥満度が高い人ほど、この比率が大きいという報告があり、「デブ菌」などとも呼ばれ話題になった。また、バクテロイデーテス門は、穀物を主とした食事で増える。

 そもそも腸内フローラとは、菌の集合体だ。約1千種類、数として100兆以上の腸内細菌が生息していて、それがひとつの生態系として機能している。いろいろな菌がバランスよくいることが大事で、多様性が高い、つまりバラエティーに富んでいるほど病気になりにくいという研究結果もある。検査では、平均と比べた場合の多様性の高さがわかる。

 腸内細菌は具体的にはどのように肥満にかかわっているのか。

 人間自身が利用する糖分、脂肪分というのは小腸で吸収される。吸収されずに残るのが食物繊維。それが大腸に届いて、腸内細菌の栄養になる。

「腸内細菌は食物繊維を餌にして、短鎖脂肪酸という物質を作ります。これが神経に作用すると、代謝が活性化する。あるいは脂肪細胞に働きかけると、脂肪の蓄積がストップする。短鎖脂肪酸が肥満を防ぐ、というメカニズムが仮説として言われています」(沢井さん)

 腸内フローラ検査の利用者は30、40代が多く、女性が6割。一般と法人あわせ、これまで2千件ほどの検査が実施されている。もともとおなかが弱い、と感じている人が多くいるという。検査結果に照らすと、菌の多様性や、酪酸産生菌割合などが、おなかが強いのか弱いのかの目安になる。

 おなかが弱い人が食物繊維をとると、余計におなかを壊すので注意が必要だ。まずは正常な菌の状態に戻すために、食物繊維ではなく、プロバイオティクスなどの善玉菌を取るべきだという。1、2カ月経てば腸内環境は変化するため、定期的にチェックすることで取り組みの効果を測ることもできる。

 腸内フローラ検査は新しい分野で、データ数がまだ少ない。今後データが蓄積していくことで、疾患との関連もより明確になると見られている。

●遺伝タイプに応じて

 最後にもうひとつ、肥満にまつわる検査を紹介したい。

 主な生活習慣病は生活環境に要因があるケースが7割とされているが、肥満は遺伝的な要因が7割とされている。肥満外来のあるウェルネス ササキクリニック(東京都板橋区)では、肥満遺伝子検査を行っている。佐々木巌院長が説明する。

「10年ほど前からこの検査を行っていますが、肥満外来を訪れる患者さんの6、7割程度が、何かしらの肥満遺伝子を持っています」

 導入しているのは、個人向けにも販売されているダイエット遺伝子検査キットDNA SLIM(税込み7290円)。口のなかの粘膜をこすってとるだけで、5種類の肥満遺伝子をチェックできる。

 まず、食行動調節系遺伝子と呼ばれ、食の嗜好にかかわる二つの遺伝子、「高カロリー嗜好遺伝子」と「過食傾向遺伝子」。これらの遺伝子を持つ人は、無意識に高カロリーのものを好んで食べてしまったり、過食になりやすかったりする傾向を持つ。

 次に、エネルギー代謝調節系遺伝子と呼ばれ、基礎代謝の低下にかかわる遺伝子には、「内臓脂肪型」(糖質代謝が低く内臓に脂肪がつきやすい)、「皮下脂肪型」(脂質代謝が低く下半身に脂肪がつきやすい)、「やせ型」(たんぱく質が代謝されやすく筋肉がつきにくい)の三つがある。

 もちろん、遺伝的な要因があるとわかったところで、遺伝子を組み換えられるわけではない。メリットは、遺伝タイプに応じて、より効果の出やすい食事、運動を指導できることだという。

「内臓脂肪型の場合は、糖質過剰摂取を控え、有酸素運動を積極的に行います。皮下脂肪型の場合は、脂質の割合を減らし総カロリーを調整します。やせ型の場合は、筋力トレーニングをして筋肉量を落とさないようにします」(佐々木院長)

 正しくダイエットをしているはずなのに成果が出ない人は、その原因が思いもよらないところにあるかもしれない。さまざまな角度から生活を見直してみるという意味でも、これらの検査を活用してみてはどうだろう。

AERA 2016年12月26日号