「君はどうしたいの?」

「それを学ぶために、大学に行きたいと思っています」

 プログラムを受けた学生向けには、グループディスカッション・基礎学力検査と個別面接のアサーティブ入試を実施する。グループディスカッションの判定は職員が務め、ポイントはアサーティブな態度があるかどうかだ。

「職員が選考にかかわっていると驚かれることもありますが、学生を育てるうえでは、自然なこと。アサーティブ入試で入学した学生は、大学祭やオープンキャンパスにも積極的に参加してくれます」(福島副学長)

 甲南大学は、全在学者数は1万人足らずと、比較的小さな規模の大学だ。学長室の林正樹さんは、「この規模の大学だから、できることがある」という。

 1年次に8学部全員の共同ゼミを設け、正解の出ない課題に取り組むPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)を行う。学生の基礎力を醸成することが狙いだが、学生には「入学間もない時期に他学部に友人ができる」という点でも好評だ。

 今年度の入学生からは高学年次に、ビジネスや法律の専門家から社会で求められるスキルと実技を学ぶ共通科目群を設定する。

 在学中に社会とつながる機会を提供する大学もある。産業能率大学では8年ほど前から、企業が現実に抱えている課題について、学生がソリューションを考えるプロジェクトを実施してきた。20~30代向けの化粧品を熟年層に売るには? 震災後、風評被害を受けたシラスを売るにはどうするか。

 入試企画部の林巧樹さんは、「学生の発想は、粗削りな面もあるが、斬新で柔らかい」と話す。SNSやLINEでリサーチし、ターゲット層へ的確にアプローチして驚かされたこともあった。

 今年から沖縄県石垣市、石垣島内に工場を持つユーグレナ、地元の自由が丘商店街と協力し、石垣市の地域創生につながる3年スパンのプロジェクトを始めた。今年の課題は「冬の観光客をどう増やすか」。

 今年は35チームが参加。優秀賞を獲得したチームは来年2月に石垣市に行ってプレゼンし、意見交換する。

「真剣に取り組み、時に悔し涙を流す。学生たちは、プロジェクトを実現する苦労も、失敗も、その先の数少ない成功も知って、社会に出ることになります」(林巧樹さん)

 社会に出た卒業生たちは企業から高い評価を得ているという。

●都心回帰の動きも

 より積極的に学生の獲得を狙い、都心にキャンパスを新設する動きもある。

 来年4月、津田塾大学は東京・千駄ケ谷に総合政策学部を開設する。立地のメリットを、

「学生も通いやすく、企業や官公庁とも連携しやすい」と高橋裕子学長は語る。

 総合政策学部では、「英語」「ソーシャル・サイエンス」「データ・サイエンス」を重点的に学び、現代社会が抱える課題に多角的に取り組む力を培うという。

 大阪工業大学は、阪急梅田駅前の高層ビルに、ロボティクス&デザイン工学部を新設する。既存のロボット工学科と空間デザイン学科に、システムデザイン工学科を加えたもので、新学科では、IoTや人工知能などの技術を総合的に扱うことが狙いだ。

 学部長に就く大須賀美恵子教授は話す。

「都市型キャンパスだからこそ、企業との共同研究も行いやすく、地域イベントへの参加を通して、社会的な実問題に向き合うこともできます」

 いかに魅力ある大学をつくり、学生を集めるか。大学経営の王道だが、危機に向き合い未来を切り開くアイデアを生み出せるかが、私立大学生き残りのカギを握りそうだ。(編集部・長倉克枝、澤志保)

AERA 2016年12月19日号