●学長自ら名刺配り

 下村輝夫学長が自ら、学生や父母らに声をかけ、「いつでもご連絡ください」と名刺を配るのだ。下村学長が年間に配る名刺は2千枚以上という。

 メル友になった保護者は、現在87人。寄せられる内容は、8割がクレームだ。なぜ単位がもらえないのか、留年したのか。

「進級条件は厳しく、一定数の留年者は出ます。教育をなおざりにせず、学生のためであることを、丁寧に説明しています」

 十数年前は、福岡工大も志望者減に悩んでいた。取り組んだのは、問題の洗い出しと対策だ。数年の試行錯誤を経て、10年前から少しずつ結果が出るようになったという。

 大谷忠彦常務理事は言う。

「優先したのは、『学生のため』ということ。多くの大学は長らく、企業では当たり前の『真の顧客満足』を考えてきませんでした」

 高校からの評価も、就職先の企業からの評価も上がった。偏差値も徐々に上昇し、難関校との併願者も増えた。

「ここが頑張りどころ。いずれは、志願倍率が10倍を超える大学を目指したい」(下村学長)

 入学者が増えても中退者が出れば、その分の学費が目減りする。私大の中には中退者が2~3割に上るケースもあり、経営上、無視できない問題だ。

 興味深い取り組みを行うのが、追手門学院大学だ。

 福島一政副学長は着任した当時をこう振り返る。

「学生のうち、第1志望入学者は2~3割程度しかおらず、志望校に落ちた不本意入学者が多かった。彼らと、『将来どうする?』『大学で何をしたいのかな』と話しました」

 意欲を持ち、納得して進学してほしい。14年から、オープンキャンパスで職員が高校生らと面談する、アサーティブプログラムを始めた。

 自分の意見を言い、相手の意見を聞き、そのうえで自分の意見を言うことができるか。今年のオープンキャンパスでは、62人の職員が高1から高3まで900人余りの高校生と面談した。

●入学前から育てる

 ある男子高生は、将来何をしたいかと聞かれ、福島副学長にこう言った。

「将来は公務員になりたい。安定しているから」

「20年経てば、消える自治体も出るだろう。公務員だから安定しているとは言えない。君は、自分の街の状況を知ってる? なぜ大学に進みたいの?」

 そう問われた男子高生は、次のオープンキャンパスにも来ると、顔つきが変わっていた。「僕の住む街を調べてきた」と説明された福島副学長は、もう一度尋ねた。

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