その中でも新型出生前検査は妊娠10週から受けられ、比較的精度が高く、流産や感染症のリスクもないとして、海外では11年ごろから実施されてきた。

 しかし、規制がない日本にそのまま導入されると、妊婦が検査内容を正しく理解できずに混乱が広がりかねないとして、専門家団体は、検査前に遺伝カウンセリングを行うことを条件とした。13年から臨床研究として行われている。

 ただ、新型出生前検査でわかるのは、染色体異常の「疑いが高いかどうか」まで。染色体異常かどうかを確定するには、羊水検査を受けなければいけない。

 負担は経済面にも及ぶ。新型出生前検査の費用は約20万円、羊水検査は約10万円。羊水検査でもわかるのは、染色体異常や、先天性風疹症候群など一部の疾患だけで、全ての先天性疾患がわかるわけではない。

 聖路加国際病院の場合、妊婦健診を受ける人全員に出生前検査があることを案内。検査を受けたい人、検査について知りたい人に遺伝カウンセリングを予約してもらうという流れを取っている。新型出生前検査の場合、初回のカウンセリング費用は1万2千円。40歳以上の妊婦の半数近くが遺伝カウンセリングを訪れ、その約8割が何らかの出生前検査を受けるという。

「臨床研究開始後1年間の経過では、新型出生前検査を受け、羊水検査で染色体異常が認められた妊婦の97%は人工妊娠中絶を選んだ」という報道もあるが、この数字を見て単純に「多い」と感じてはいけない。遺伝カウンセリングを受ける妊婦は出生前検査や、その先にある人工妊娠中絶を視野に入れていることが多いからだ。人工妊娠中絶を考えていない妊婦はそもそも、出生前検査を受けることは少ない。

 山中さんは訴える。

「しばしば『検査を受けたほとんどの妊婦が人工妊娠中絶するなら遺伝カウンセリングはいらない』と言われますが、それは違います。私たちの目的は、人工妊娠中絶の阻止ではありません。本人がどうしたいのか、その人の価値観を大切にしながら意思決定のお手伝いをするのです。出産後や中絶後のフォローもしていきます」

●地域的な偏在も課題

 現在、遺伝カウンセリングを受けられるのは大学病院など、都市にある大規模病院がほとんど。学会認定の遺伝カウンセラーが一人もいない県があるなど、地域差もある。山中さんは、「遺伝性疾患をもちながら地域で暮らす人にも、遺伝カウンセリングのニーズがあるはずです。大病院で体制を整えるだけでは不十分で、地域の保健師や看護師にも、遺伝について学べる機会を提供していきたい」と話す。

 遺伝に関する病気の研究が進むにつれて、自分や子どもへの影響について、不安を感じる人はますます増えるだろう。遺伝について、気軽に相談ができる専門家を養成し、一刻も早く全国に行き渡らせることが必要だ。(サイエンスライター・島田祥輔)

AERA 2016年12月19日号