東京大学理事・副学長 南風原朝和(はえばら・ともかず)さん(63)/1953年生まれ。東京大学教育学部卒。専門は心理統計学。今年3月まで高大接続システム改革会議委員(撮影/岡田晃奈)
東京大学理事・副学長 南風原朝和(はえばら・ともかず)さん(63)/1953年生まれ。東京大学教育学部卒。専門は心理統計学。今年3月まで高大接続システム改革会議委員(撮影/岡田晃奈)

 大学が、世間と隔離された「象牙の塔」と言われたのはまさに「今は昔」。国からの補助金も削られ、若年人口も減少する中、自ら「稼ぐ」ことなしに生き残りを図れない傾向が強まっている。働く環境の悪化に苦しむ教職員。経営難の地方私大の中には「ウルトラC」の離れ業で大逆転を狙うところも出てきた。そんな大学の最新事情を12月19日号のAERAが「大学とカネ」という切り口で特集している。

「新テスト」で大学受験はどうなるのか。東京大学理事で副学長の南風原朝和さんにお話を伺った。

──新テストの議論に疑問をお持ちだとか。

 そもそも文科省の高大接続システム改革会議では、新テストともう一つの「高等学校基礎学力テスト」との組み合わせで、高校教育をどう変えて高大接続をしていくのか、といった話をしていたはずなのに、最近、基礎テストの話はまったく聞かなくなりましたね。新テストの中の国語のたった1問だけに関心が集中し、バランスを欠いた議論になっているように思います。

 また、たとえ1問でも新たに記述式を入れると数億円ものコストがかかります。そこまでして得られるベネフィットは何なのかが、まったく検証されていないのも問題です。これまで測れなかった能力が本当に測れるようになるのか。記述式の導入でどの程度、高校教育がポジティブに変わるのか。ベネフィットは微々たるものかもしれないし、場合によっては負の影響すら出かねません。

──負の影響とは?

 高校の国語教育がゆがめられるということです。例を挙げましょう。文科省が提案する「条件付き記述式」と同形式の出題が全国学力・学習状況調査にあります。雑誌の記事を読んで、テーマとなっている「宇宙エレベーター」について疑問に思ったことを「なぜ」や「どのような」など指定の言葉を使って、20~40字で書くものです。

●指定語使わねば誤答に

 正答例は「宇宙エレベーターの実現には、どのような課題があるのか」。「宇宙エレベーターに乗るための費用はいくらなのか」は誤答例になっています。

 しかし、誤答例は指定の言葉を使わなかっただけで、内容自体は適切です。このように一定の条件に従うことのみが正誤の採点基準になると、受験生を本質からはずれたテクニックに走らせる危険性があります。自ら問いを立て考える力をつけようという入試改革が目指す方向とは真逆です。

──40字程度では記述力を測れないという指摘もあります。

 単なる文字数の問題ではないでしょう。雑誌や新聞の見出しは10字程度ですが、記事の要点を捉え、読者の興味を引き寄せられるかという「表現力」をみることは可能です。でも、その採点基準を作るのは難しい。特定の言葉が入っているか、文法的に正しいかなどの基準では妥当な評価はできません。新テストでは50万人分の答案を数週間で評価する手段として、そのような表面的な基準を用いようとしています。

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