しかし、3人の子どもはすでに、政権移行チームの執行委員会メンバーに就任している。つまり、政権人事に、事業に有利な人物を選ぶことは可能だ。イヴァンカ氏はワシントンに居を移すとしており、安倍晋三首相とトランプ氏の会談にも「異例」の同席を果たした。トランプ親子の「公私混同」が問題視されている。

 さらに米メディアによると、トランプ氏は、経営から身を引くが、自らの事業の株式・資産は保有を続けると報道されている。各国首脳に会う際、株主としての利益を誘導する話をしないという保証はない。

 アフリカやアジアなどの開発途上国などで、その国の判断としてトランプ印の海外投資を拒否することができるのか。各国首脳や外交団がトランプグループのホテルを使い、トランプ氏の心証をよくしようとするとの観測はすでに出ている。本来は国の利益を優先すべき大統領が、ファミリービジネスの利益をも代弁できる立場にある。

 公務員倫理を担当する米政府機関オフィス・オブ・ガバメント・エシックスは11月30日、トランプ氏が経営を離れる表明をした直後、トランプ氏に向けて異例の9本連打ツイートをした。

「素晴らしい! 事業の売却は、あなたにも、アメリカにもいいことだ!」

ドラマの先を行く展開

 通常は1週間に一本あるかないかのツイートで、当局の関心の高さもわかる。前出のロンバルディ氏は、こう指摘する。

「トランプ氏は、身辺や周りの人には非常に厳しい人物だ。(寄付金が、ライバルの民主党候補ヒラリー・クリントン氏一家に流用されていたとされる)クリントン財団の問題など、政治家が金に汚いことに嫌気した有権者に選ばれたトランプ氏だ。絶対に、利益相反はないように対応するだろう」

 しかし、たとえトランプ氏が資産を手放したとしても、子ども3人が、彼に電話やメールで連絡をするというのは、いかにも簡単だ。金色のエレベーターホールで、うんざりした表情のカメラマンらに話しかけた。

「今日は、収穫あった?」
「シカゴのラーム・エマニュエル(オバマ大統領の元首席補佐官で現シカゴ市長)が来た」
「ワオ! 大物ね」

 防弾チョッキを着た警官らに見送られて「トランプ帝国」をあとに歩道に出ると、突然、ドラマの世界から現実に戻ったような気がした。タワーの高層階で起きていることは、超大国の将来を大きく左右する。ドラマの劇中にいる気にさせてしまうのが「トランプ流」だが、計り知れない危険も秘めている。(ジャーナリスト・津山恵子/ニューヨーク)

AERA 2016年12月19日号