今回のことで朴正熙(パクチョンヒ)元大統領以来の韓国の中の保守主義の残滓が、退潮を余儀なくされると思います。それは、韓国の保守の伝統が変わる可能性があるということです。韓国では民主化にもかかわらず、中央と地方を問わず、大小のボスが属人的な人間関係を通じて支配する保守的な構造が存続してきました。それを一番体現していたのが近代化を進めた朴正熙元大統領です。彼の娘である朴槿恵大統領はその残影を背負うことで大統領になりえたのです。

 しかし、今回の事実上の退任で保守の非合理な部分の亡霊が消え、もう少しスマートな保守が出てくる可能性があるかもしれません。韓国の保守が育たない理由に「分断」があります。分断されている中では健全な保守はなかなか育ちません。今回のスキャンダルと大統領の退任で朴正熙元大統領以来の伝統的な保守の基盤が失われ、その分、与野党の妥協点がこれまで以上に見つけやすくなるかもしれません。それが、韓国の政治の安定につながるのかどうか、見守るしかありません。(姜尚中)

AERA 2016年12月19日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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