「公立化の経費を支える地方交付税も、打ち出の小づちではない。いまは地方創生といえば誰も反対できない空気があるので、公立化は言った者勝ち、早い者勝ちだという話をよく聞きます」

 当事者たちにとってはいいことずくめの公立化も、立場が変われば見え方は変わってくる。

●努力やめた方がいい?

 東京理科大は、長野県で運営している「諏訪東京理科大学」も18年度の公立化を予定している。同県では、長野大学も来年度からの公立化を計画し、他に県立大もできるため、この先県内に公立大が四つとなる計算だ。

 諏訪東京理科大学、長野大学と同じく、地元自治体が資金を出してつくった公設民営型の私立松本大学。定員割れすることもほとんどなく、看板を守ってきた。

 同大は、地域の課題解決を目指した人材育成プログラムなどが文部科学省から評価され、補助金の対象にも選ばれている。地方の小さな私大としてのフットワークの良さを生かしながら、黒字経営を続けてきた。

「少子化や助成金が減っていく中で、経営が苦しいのはどこの私大も同じ。その中で我々のように必死に経営努力をして、私学で踏んばっている大学がある一方で、努力をあきらめて公立化すれば、学生は集まり、交付金で経営は安泰というのでは、努力した者がバカを見ることにもなりかねません」

 住吉廣行学長は、公立化が進む状況に疑問を投げかける。

 県内のある高校の進路指導教諭は「誰のための公立化なのか」と首をかしげる。

「公立化が決まった途端、指定校推薦の枠が減る例があります。公立になることで近隣県からも志願者が殺到するからでしょう。推薦の基準も上がって、これまでなら合格できたレベルの生徒たちも推薦できなくなり、受けても不合格になって、結局、県外に出ざるを得ないという事態も起きている。『公立化で地域貢献』と言いながら、地元の子が締め出されているんです。教育の中身自体が劇的に変わったならともかく、こういうことで本当に地域のためと言えるのでしょうか」

 地域ごとに様々な事情はあり、一概に公立化のよしあしを断ずることはできない。ただ、仮に教育内容や経営努力に問題がある大学でも安易に公立化できてしまうとしたら、それに歯止めをかけることはできるのか。

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