私はこの議論を全面否定はしませんが、日米同盟を完全に解消するというのはナンセンスです。日本が核兵器や大陸間弾道ミサイル、パワープロジェクション能力(軍事力を前方展開して作戦を遂行する力)を保有するコストを考えれば、非現実的です。

 そういう意味では、どの国にも完全な「自主防衛」はあり得ない時代になっています。軍事力を冷静に、正確に分析することもせずに精神論で行くと、とんでもないことが起きます。

 ですから私は、「軍事を語れない国」は、怖い国だと思います。これからの日米同盟を考えるうえで必要なのは、こうした軍事の本質について議論することではないでしょうか。

 自衛隊に新たに付与された任務「駆けつけ警護」についても世論は否定的ですが、私は、法律上の問題があるとはまったく思っていません。「いざとなったら日本の自衛隊が駆けつけて警護をする」ということは、テロリストなどに攻撃を思いとどまらせる大きな抑止力になるでしょう。

 私が防衛庁長官だった時代に、イラクに自衛隊を派遣した際、隊員たちは、一人も傷つけることなく、また一人も傷つくことなく、任務を達成しました。今回もそうあってほしいし、そうあるべきですが、世の中には「絶対」ということはない。その時に、「もうこんなことはやめよう」となるのか、「改善すべき点を改善して任務を継続すべきだ」となるのか。

 自衛隊そのものやそのあり方が大きな岐路に立たされる可能性を考えておく必要があるでしょう。

(構成/編集部・野村昌二)

AERA 2016年12月12日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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