中国空軍はかつての戦闘機4500機を機種更新で1400機余に削減したが、操縦士の年間飛行訓練は欧米の資料で約150時間、航空自衛隊と同等だ。

 一方、航空自衛隊は那覇にF15約40機を配備し、九州の築城(ついき)、新田原(にゅうたばる)両基地から20機ほどを出しても、計60機。中国の第4世代戦闘機に比し4対1の劣勢だ。日本側には早期警戒機E2Cで相手を早く探知できるとか、電波妨害などの電子技術や戦闘機の稼働率も高い、などの利があっても、4対1の数的劣勢を補えるか否かは疑問だ。もし真剣に尖閣防衛を考えるならオスプレイなどよりもF35ステルス戦闘機の追加購入など、制空権の確実な掌握のほうが先決問題だろう。

「弾道ミサイル発射手段等に対する対応能力を検討、必要な措置を講じる」。これは2013年12月の「防衛計画の大綱」などに書かれているが、ミサイル基地攻撃を意味する。だが攻撃能力を持っても、北朝鮮の弾道ミサイルの移動発射機の位置が不明では攻撃できないのだ。

「偵察衛星でわかりませんか」と言う自衛隊の将官もいたが、これは地球を南北方向に1周約90分で周回。1日に約1回、世界各地の上空を時速約2万8千キロで飛ぶ。北朝鮮上空は1分以下で通過する。固定目標は撮影できるが、移動する物体は発見できない。静止衛星は赤道上空3万6千キロの高度だから、ミサイル発射時の熱しか感知できない。多数の無人偵察機を北朝鮮上空で常時旋回させておけばミサイルを発見できるが、対空ミサイルで撃墜される。

 平時の対地攻撃訓練では標的の位置は決まっているから、目標を探す困難を忘れた論が横行する。すべての核ミサイルを同時に破壊するのは不可能で、こちらが核反撃を受ける危険が大きい戦略だ。(寄稿/軍事評論家・田岡俊次氏)

AERA 2016年12月12日号