ちなみにオーストラリアの学校には部活がありません。スポーツ好きな国民なので、オーストラリアンフットボールやラグビー、サッカーなどを習っている子も多いですが、みんな地域にあるクラブチームに入ります。次男もサッカーをやっていました。上手になると、より強いチームに志願します。弱点克服のためにサッカー教室にも通いました。教えてくれるのは専門家で、時々現役選手の出張トレーニングもあります。

 あるプロ選手の言葉が印象的でした。「君たちのうち、プロになれるのはほんのわずかだ。ロナウドやメッシになれる可能性はとても低い。では君はなぜサッカーをやるのか?」

「勝ちたいから」「面白いから」「なんか蹴りたいから!」。子どもたちは答えます。

「そうだね。それでいいんだよ。プロを目指すのもいいし、もし上手じゃなくても、サッカーが君の人生を楽しくするなら、十分価値があるんだ。でも、ボールを蹴らずにグルグル走っていても上手にはならないよ。とにかくたくさん試合をしよう。リスクをとって、チャレンジすることが大事だよ!」。上手な子も下手な子も、子どもたちの目が生き生きと輝きました。きっとスポーツも勉強も仕事も、同じではないかと思います。

 次の五輪開催地の子どもたちは、いま幸せにスポーツをしているのかなと、ふと心配になったのでした。(小島慶子)

AERA 2016年12月12日号

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小島慶子

小島慶子

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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