河口さんが作成した中で、最も印象深い味は「ブルーチーズ」だ。パウダーとフレーバーにこだわり、本物らしさを追求したところ、「『そのものじゃん』と言われニヤッとしました」

 あまりに本物の味に似ていたため、ブルーチーズが苦手な社員は試食拒否をしたほどだ。

 17年2月発売予定の「モーツァルトチロル」では「マジパン」に挑戦した。きっかけは社長の興味だったと開発部部長代理の松嶋祐介さん(40)は言う。マジパンとはアーモンドプードルに砂糖を加えたヨーロッパの伝統的な菓子だ。

「原料は一部ドイツから輸入して原価が高いので、45円(税込み)で販売予定です」(松嶋さん)

 通常価格は1個22円のため、チロルの中では「高級チョコ」になる。まずはコンビニで販売し、売れ行きを見て展開を広めていく。

●ブランド世界観重視

 対照的に、まずコンセプトを決め、ブランドの世界観を重視するのがハーゲンダッツ ジャパンだ。今年の10月初旬発売の「メープルカスタードクッキー」を担当したマーケティング本部の渡辺淳巳(あつし)さん(34)は、「新商品ユーザーだけど、冒険しない、安心感を重要視する人をターゲットにした」と話す。開発者と2人1チームで、方向性と素材をディスカッションし、同時期に発売される商品コンセプトとバッティングしないよう、他チームとも密に情報交換を行った。

 今や国内の店頭に並ぶ食品の入れ替えは、3カ月に1度ほどのペース。発売までに多くの人の手が入り、その企業ならではの思いと戦略が織り込まれていることがわかれば、美味しさは2倍増しになるかもしれない。(編集部・小野ヒデコ)

AERA 2016年12月5日号