日清食品マーケティング部では、麺の真っすぐさやすすり心地、スープ・具材の味や量などを確認。「麺を底から混ぜるのがポイント」(マネージャーの川坂和生さん・中央)(撮影/今村拓馬)
日清食品マーケティング部では、麺の真っすぐさやすすり心地、スープ・具材の味や量などを確認。「麺を底から混ぜるのがポイント」(マネージャーの川坂和生さん・中央)(撮影/今村拓馬)
「本場イタリアの味をご家庭でも」(営業の鈴木智恵さん・右から3人目)。数社のメーカー製の電子レンジを完備し、加熱の度合いも確認する(撮影/今村拓馬)
「本場イタリアの味をご家庭でも」(営業の鈴木智恵さん・右から3人目)。数社のメーカー製の電子レンジを完備し、加熱の度合いも確認する(撮影/今村拓馬)
ポリカーボネート製の型にチョコを流し入れた後、大理石の台に力いっぱい叩きつけて空気を抜く(撮影/編集部・小野ヒデコ)
ポリカーボネート製の型にチョコを流し入れた後、大理石の台に力いっぱい叩きつけて空気を抜く(撮影/編集部・小野ヒデコ)
チロルチョコの中に入れるソースは、計量器の上で分量を量り注入(撮影/編集部・小野ヒデコ)
チロルチョコの中に入れるソースは、計量器の上で分量を量り注入(撮影/編集部・小野ヒデコ)

 健康志向の高まり、高齢化、働く女性の増加など、食卓を取り巻く環境は大きく変わった。食品メーカーや卸業者など食に関わる会社は、こうした動きをビジネスチャンスと捉える。これからのニッポンの食卓とは? AERA 12月5日号では「進化する食品」を大特集。今回はその中から、食の開発についての調査を公開する。

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「30秒前です!」

 威勢のいい声が会議室に響いた。ピリッとした雰囲気の中、タイマーが鳴った。カップ麺のフタを開け、無駄のない所作で麺をほぐし、小皿に盛り付けていく。次の瞬間、5人の男たちは立ったまま一斉に麺をすすり出した。並べられた数種類のカップ麺を黙々と食べる様子は、真剣勝負そのものだ。

 これは日清食品のどん兵衛チームのマーケティング部による試食現場。全社で年間300以上の新商品を発売しているため、1日に1品、新商品が生まれていることになる。この日は、開発中の商品に加え、防災食としてお湯の代わりに常温のトマトジュースを入れるなどSNSに掲載されている食べ方も試した。

●各自体重管理を徹底

 試食は多い時で1日10回、長い時で1回1時間ほど。立ったままなのは集中力を高めるのと、満腹予防のためだ。エプロンはつけない。ベテラン社員は服も周りも汚さずに試食するが、マーケティング部に来て2カ月の中島基貴さん(28)は、「シャツ、ネクタイを汚して、さよならしたことは幾度も……」と、現在修業の真っただ中だ。

 味覚が麻痺しないよう、味が薄いものから食べるのが鉄則で、具材がスープと合わさるとどのような味に変化するかまでも確認する。試食終了後、手際良く片づけが行われ、わずか3分ほどで撤収した。家でも洗い物などの家事はするというポジティブな職業病付きだ。

 マーケティング部ブランドマネージャーの川坂和生さん(51)は小学生時代からカップ麺好きで、弟とはどん兵衛の「揚げ」を取り合ったこともある。中でも、父親が作る「煮込み風チキンラーメン」が好きだった。少なめの湯で麺をもどし、生卵を落とす作り方を今もしている。

「気づいたら息子も全く同じ方法で作っていました。3世代に引き継がれている食べ方です」

 かなりのカロリーを摂取しているにもかかわらず、マーケティング部員に太った人はいない。その訳は各自の体重管理にある。週末は10キロほど走る、夜ご飯は少なめにする、お米は極力食べないなど注意しているのだ。

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