「漁業者がすごい勢いで減っている一方で、勝ち組のスーパーや回転寿司は巨大化し、量を求めている。加工だけに力を入れても、原料を安定的に調達する仕組みがなければ生き残れない」

 社長の小野博行さん(59)はこう話す。養殖業は年45万尾と国内有数の規模に発展。近海マグロはえ縄漁船も2隻目の建造を準備中だ。2週間から1カ月ほど出漁し、ビンナガマグロなどをとるこの漁は、仕事のきつさやもうけの減少で従事者が減り、船も減少の一途にある。そんな世の趨勢に逆らい「株主にバカかと言われ」(小野さん)ながらの建造は勝算があってのこと。

 船の断熱材を厚くし、より冷却効果の高い、太い冷却配管を導入。マグロは船上でえらと内臓を取って鮮度保持を徹底している。自社の加工にも回し、漁船の収益を下支えしてもいる。同種の漁船が減り続け、自分たちで売り先を選べる時代が来ればさらに利益を生むと見込んでいる。

「将来的に4隻つくり月に一度の水揚げが毎週できるようにしたい。マグロの買い付けには他地域の仲卸も来て、港にも活気が出る。水揚げを見に尾鷲に人が来るようになるかもしれない」

 小野さんは、かつての輝きを失ってしまった地元、尾鷲の復活にまで思いをめぐらせている。

●鮮魚流通の改革に挑む

 尾鷲物産がメガサプライヤーになって川下の巨大化に対応しようとしているのに対し、さまざまな魚種への需要に対応しようとしているのが都内にある「八面六臂」だ。独自の発注システムを通してスマホ、タブレット、PCなどから注文のあった品を1都3県の飲食店に納品している。鮮度がよく、合理的な価格で、かつ品ぞろえが豊富でほしい時間に届くサービスを目指し、売り上げを年々伸ばしている。

 その特徴は、産地市場や中央卸売市場の荷受けや仲卸、商社などさまざまなルートから仕入れを行うこと。漁獲量が日々変動し、入荷を予測しづらいうえに腐りやすい魚は、商材としてはかなり扱いづらい。多くの魚種を少量だけ鮮度の良い状態でほしいという飲食店側のニーズがあっても、仕入れ側の都合で応えきれない部分があった。

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