●考え方をシフトして

 しかし浅田は根っからのアスリート。練習量を保つことが試合への絶対条件、という気持ちを抑えられずにいる。浅田の憧れの先輩、伊藤みどりは言う。

「年を重ねれば、痛みもけがもないアスリートなんていません。真央ちゃんは芸術性が増してすてきなスケーターに育っているのだから、練習量にこだわらず自信を持っていい。考え方のシフトさえできれば、もっと幸せに選手生活を送れるはずです」

 浅田の次なる試合は、世界選手権への選考会を兼ねる12月下旬の全日本選手権。浅田は、

「自分で望んで復帰したので、もう一度気持ちを奮い立たせたい。とにかく全日本でやるしかない。最後の最後まで」

 と言うが、いまの浅田が世界選手権を目指すのは苦しい。日本スケート連盟が定める選考基準は、全日本選手権の優勝者、全日本の2位、3位かGPファイナルの日本人上位2人、世界ランキングの日本人上位3人などだ。

 今季は2月に、韓国・平昌(ピョンチャン)近隣の五輪予定会場で四大陸選手権、札幌で冬季アジア大会が開かれるほか、4月には五輪の団体戦を模した形式で行われる国別対抗戦もある。2月開催の五輪を意識するなら、同時期にピーク調整の練習ができて、団体戦の雰囲気も味わえるこの3大会のほうが経験する価値がある。

 伊藤もエールを送る。

「とにかく諦めないで。今季はうまくいかず世界選手権に出られなくても、平昌五輪という夢はあります」

 浅田ほどの選手なら、五輪前季の成績で悩む必要はない。五輪代表選考の場となる来季の全日本選手権、そして五輪本番で、最高の笑顔が見られれば。(ライター・野口美恵)

AERA 2016年11月28日号