米国が自国産業を保護する路線をとるならば、日本の輸出産業は円高とのダブルショックに見舞われる可能性も (c)朝日新聞社
米国が自国産業を保護する路線をとるならば、日本の輸出産業は円高とのダブルショックに見舞われる可能性も (c)朝日新聞社
寺島実郎氏 (c)朝日新聞社
寺島実郎氏 (c)朝日新聞社

 トランプ大統領の誕生で、日本の外交や経済、日米安保はどんな影響を受けるのか。日本政府はどう対応すべきなのか。経済分野について、日本総合研究所会長の寺島実郎さんに話を聞いた。

寺島実郎さん(日本総合研究所会長)
1947年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了後、三井物産入社。三井物産戦略研究所所長などを経て、2016年から現職。多摩大学学長も務める。著書に『中東・エネルギー・地政学』など

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 米大統領選でトランプ氏勝利が伝わったことで、11月9日の日経平均株価は一時1千円もの下落を見せたが、翌10日は1092円高となり今年最大の上げ幅を記録しました。この日本株の不規則な動きはひとえに不透明感の象徴です。NY市場に振り回されているだけで、いまだにその問題の本質を測りかねています。

 トランプ氏が掲げている政策の一番の問題は「アメリカファースト(米国の自国利害中心主義)」にあります。米国は第1次世界大戦に参戦して以降、英国に代わる世界のリーダーとして、常に「国際的責任」を背負ってきました。その看板を下ろしたことは、20世紀から続く米国の国際主義の終焉と言えるでしょう。

 同時に、トランプ氏の発言からは新自由主義との決別も感じられます。ヒラリー氏の夫であるビル・クリントン氏が大統領時代の1999年に廃止した、証券と銀行業務を分離させるグラス・スティーガル法を復活させ、TPP(環太平洋経済連携協定)には参加しないとしています。マネーゲーム路線をひた走る強欲なウォールストリートに縛りをかけ、貿易障壁を築いて非金融分野の自国産業を保護するとしているのです。

●行き詰まりを迎えた

 当然のことながら、日本への影響は免れない。米国での金融規制はマーケットを不安定にします。私は、長期的には円高が必ずしもマイナスとは考えませんが、為替相場は円高に当面シフトし、日本株の下押し圧力となることが考えられます。

 TPPで再交渉を迫られるのも間違いなく、日本の輸出は円高とのダブルショックに見舞われる可能性もあります。トランプが「日本車の関税を大幅に引き上げる」と言っていることを考えれば、戦後日本を支えてきたモノづくり産業にも大きな影響が出かねません。

 ですが、悲観的に考える必要はありません。米国が政策のパラダイムシフトを行うのなら、日本もこれを日米関係の固定観念から脱する好機とするべきです。現在の日本が置かれている状況は「新自由主義とリフレ経済学の複雑骨折」です。米国に倣い、金融に依存した経済観にすがって、安倍政権下では金融政策による経済の下支えを行ってきましたが、日銀が「量から金利へ」と舵を切ってきたことからもわかるように、それは行き詰まりを迎えています。

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