次のエリアには、禅の教えをテーマにした作品が大集合。有名な「◯△□」や「坐禅蛙画賛」などが並ぶ。今回の展覧会のメイン「指月布袋画賛」は、19歳だった出光佐三が父に頼んで購入し、出光コレクションの第1号となった作品だ。

「この絵にはどんな意味があるんですか?」と案内役、学芸員の八波浩一さんに画伯が尋ねる。

「禅の修行で目指すのは、中秋の名月のような円満な悟りです。けれど終わりのない修行に心細さを感じると、月の方向をさす指(経典)に頼り、気を取られてしまう。そのことを戒めているんです」

 と八波さん。

 自身は厳しい禅の修行をし、多くの経典、書物も読んだ仙がいだが、禅の教えを人々に伝えるときには、「まずは楽しい絵」を描き、興味を持つ人が出てきたら、自分に聞きにくればよい、と考えていたのだそうだ。

●楽しく禅を学んで

 当時は識字率も低かったうえ、禅の教えは一般の人々にとっては難しいものだった。だからこそ多くの人に禅を伝えたいという気持ちが、ゆるカワ絵の裏にはあったのだ。

「マンガで般若心経を描いた本があるけれど、あんまり仏教っぽくないよね。しっかりコマ割りをしている時点で色即是空じゃないというか(笑)。確かに仙がいさんの絵のほうが仏教っぽい自由さを感じるね」

 と画伯は感心する。

●実は高度な技術あり

 次にくるのが「カワイイ」と言いたくなる「無法」を標榜した仙がいワールドの作品たち。

 SNSでも拡散された「犬図」はここにある。ひと目見ただけで、全身の力が抜けていくような子犬は、まさに無法の境地。とはいえ「犬に仏性はあるか」という禅の公案があるので、この絵にも禅の教えが隠されていそうだ。

「墨絵の専門的なことはわからないけど、たとえばこの絵だと、尻尾から頭に向かって太く描いた同じ筆で、細いひもを均等に2本描いている。なんでもないように見えて、かなり高度な技術ですよ。僕だったら震えちゃうな」(画伯)

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