プロジェクトの状況と照らし合わせて、いつなら休ませられるのか。落としどころを見つけるのが産業医と管理職の仕事だ。それが閉塞感のなかに光を差すことになる。また体調は突然悪くなるものではない。うつ病の場合は前兆となる3段階のサインがある。

 メンタル面より先に、身体や行動にサインが現れるので注意が必要だ。それを知らずにいると、部下の異変を「たるんでいる」「気合が入っていない」と、歪んだ認知で見過ごしてしまう。

「うつ病寸前の社員に『今のパフォーマンスはどれくらい?』と聞くと、20%とか30%という答えが返ってくる」

 と松崎教授は言う。20%のパフォーマンスで5日かけて仕事をするより、3~4日休んで100%のパフォーマンスで1日で片付けるほうが、本人にとっても組織にとってもいいのは言うまでもない。より早い段階で先手を打つ予防の発想が重要だ。

「過労死の問題は、とかく個人の問題に終始しがちだが、会社側がメンタルを含めた健康管理のリソースを準備すること。さらに、社員や管理職もベストのパフォーマンスを発揮するためのヘルスマネジメントの発想を持つことがいまや不可欠。社内にリソースを活用した“双方向の流れ”を作れるかどうかが、過労死をなくせるかどうかの一番のキーポイントだ」(松崎教授)

(編集部・石田かおる)

■過労死リスクを高める労働時間以外の「負荷要因」

□ 不規則な勤務
□ 拘束時間の長い業務
□ 頻繁な出張
□ 交代制・深夜勤務
□ 人間関係のストレス
□ 温度環境、騒音(80dBを超える)、時差(5時間を超える)などが特殊な作業環境
□ 精神的緊張を伴う業務

※厚生労働省「長時間労働者、高ストレス者の面接指導に関する報告書・意見書作成マニュアル(2015年11月)」をもとに編集部で作成

■見逃してはいけない「職場不適応」のサイン(うつ病発症前の3ステップ)

【第1段階】身体面のサイン:ストレスや悩み、不安がたまると現れる

<心気症:病院で検査しても異常なないと診断されてしまう不調>
□ 頭痛、腹痛などの痛み
□ めまい
□ 吐き気
□ 動悸 など

<心身症:疾患や症状として現れる>
□ 胃潰瘍
□ 高血圧、不整脈
□ ぜんそく
□ じんましん など

【第2段階】行動面のサイン:ポイントは「億劫」感。身体面のサインと同時並行で、行動の変化として現れる
□ 遅刻、欠勤が増える
□ 集中力が低下しミスを連発
□ 協調性が低下し、同僚などと昼ごはんや飲みに行かなくなる
□ 生活時間、生活態度が乱れる
□ アルコールやギャンブルなどに走る
□ 性的欲求の過剰やゆがみ

【第3段階】精神面のサイン:うつ病寸前の状態
□ 感情の起伏が激しい
□ ヒステリック
□ 陰気になる
□ 無気力
□ 無感情 など

※筑波大学大学院の松崎一葉教授への取材をもとに編集部で作成

AERA 2016年11月21日号