「急な転勤や配置転換で突発的に仕事内容が変わると心理的負荷は高くなる。長時間労働にこうした負荷が加わり、メンタルが追いつめられるケースは多い」

 さらにブラック企業によくあるのが人手不足で仕事がまわらない状況を「おまえのやり方が悪い」「努力が足りない」などと、個人の問題にすりかえる手口。こうして社員はつぶされていく。

 まず必要なのは長時間労働の是正だが、すぐに改善できない場合でも、管理職の対応次第で社員の心理的負担を軽くすることはできる。

「会社の人手不足を社員にきちんと説明して、個人の問題にしない。共通理解のもとで働くのと、そうでないのとでは心理的負担はまるで違う」(今野さん)

 加えて仕事の「見通し」や「全体像」を伝えることも重要だ。電通の過労死事件で亡くなった高橋まつりさんのツイッターに特徴的なのは、膨大な仕事がいつ果てるのかが見えない「絶望感」だ。企業の産業医を務め、労働現場にも詳しい、筑波大学大学院人間総合科学研究科の松崎一葉教授は言う。

「閉塞感は人の認知をゆがませます。トンネルの崩落事故でも、真っ暗闇のなかに遠くでもひと筋の光が見えると人の心は折れません」

●歪んだ認知で見過ごす

 部下の様子がおかしいと感じたとき、上司は「無理すんなよ」と、とかく声をかけるが、そこに今の過労死社会が象徴されていると松崎教授は言う。

「『無理すんなよ』と言うとき、上司は実は本当は無理なことに気がついている。声をかけることでやり過ごそうとするわけです。それではダメで、その時点で産業医のところに連れていくなり、休ませるなり判断して行動をしなくてはいけない」

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