「TPPは消費者に関係があると広まってないので、自由貿易大事、それに野党は反対なのかと発言されたら自民党に票が流れるだろうということで話題にしにくいのかもしれない」

 また同党の要職に就く議員の一人はこう語る。

「TPPに関しては、安保法制ほど政権与党と明確な対立軸が見当たらない。また、仮に野党共闘するにしても、自由貿易には何が何でも反対という共産党とは折り合うことはできない。それに都市部では国民の関心は薄い。TPPにしがみつけばつくほど選対運営が難しくなる」

 それでも、共同通信社が行った最新の世論調査によると、TPPの議論は「今国会にこだわらず慎重にすべきだ」が過半数の66.5%。「成立させる必要はない」という意見も10.3%あった。

 農業や酪農への打撃、食糧自給率の低下、医療費の高騰、国民皆保険制度の形骸化、食の安全の侵害、2次創作に対する過剰な規制……。TPPは国民の安全や生命、健康を守る暮らしを根本から変える可能性を秘めた条約である。国民は当然、その交渉内容を知る権利がある。

 このTPP全文の原本は英語、スペイン語、およびフランス語で作成されており、8356ページに及ぶ。そのうち日本語に翻訳されているのはおよそ3分の1。しかも、与野党問わず、党の勉強会等で配布されているのは、そのうちのわずか数ページ。いずれも官僚が日本の都合で作成したペーパーだ。

 米国の不参加でTPPが白紙になっても、米国はより厳しい条件の2国間条約締結を求めてくるだろう。それに対抗できる外交力が、今の日本にあるのか。(ライター・中原一歩)

AERA 2016年11月14日号